高田郁著『 あきない世傳 金と銀(十) 合流篇 』を読む

 この『あきない世傳 金と銀』シリーズは、江戸時代に「買うての幸い、売っての幸せ」をモットーに、呉服商を営む女商人の物語。
 半年に1巻ペースで出ているようなのだが、僕は楽しみに待って読んでいる。

 今回で10巻だ。

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 主人公の幸。学者の子として生まれるが、兄や父の死別があり、9歳で大坂・天満の呉服商「五鈴屋」に奉公に出される。
 商家では「一生、鍋の底を磨いて過ごす」と言われる女衆の身分ではあったが、番頭に才を認められ、幸自身も徐々に商いに心を惹かれ、知識を得ようとして、商人としての幸の人生が始まる。
 番頭の「商いの戦国武将になれる器」との言葉通り、幸は見込まれて「五鈴屋」の店主の妻・ご寮さんとなって、商いの世界でその才能を発揮する。
 「五鈴屋」の六代目店主が亡くなり、大阪では「女名前禁止」という掟ながら、暖簾を繋げるための異例の一時的処置として七代目店主となった幸は、亡夫との約束でもあった江戸に念願の店を出す。
 ものの考え方、着物に対する好みも、大坂とはまるで異なる江戸。知恵をしぼり、いままでの大阪での呉服商の常識を覆すような工夫をしながら、生まれたばかりの江戸店を育てる。

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 7巻では、もとは侍の裃に用いられていた「小紋染め」を、町人にも着れるものに誕生させた。
 8巻では、さらにそれを誰でも着られる、男女に好まれる「江戸小紋」へと知恵をしぼるが、幕府からは千五百両の献上金を命じられるなど、江戸での呉服商いに次から次と難題が降りかかる。
 9巻は、新たな図案で末長く町人に好まれる「江戸小紋」の型紙が完成したが、それを持って妹の結が無断で持ち出し、それを手土産に幸の反対を振り切って大両替商・音羽屋へ嫁入りし、呉服商日本橋音羽屋を開店。
 肉親の裏切りに打ちのめされる江戸店主の幸。それを型彫師の機転により危機を脱し、日本橋音羽屋と同時販売を始め順調な商いと思いきや、同業の客を奪ったと因縁を付けられ呉服仲間の組合から除名される事態となり、絹織呉服商いが出来なくなって、やむなく安価な木綿太物商いに。

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 今回の10巻では、絹織呉服仲間を追われ、木綿太物商いとなった五鈴屋江戸本店の新たな木綿太物商いの道を生み出し、それを成し遂げる物語だ。
 主人公・幸や奉公人たち、型彫師や型付師たちと知恵を寄せ合って奮闘し、生まれたのが、湯上がりの部屋着であった湯帷子(ゆかたびら)を、気軽に人前でも着ることが出来る「浴衣」。
 3年の歳月をかけて、誰も考えることがなかったその「浴衣」を、両国の打ち上げ花火の藍染め柄模様にして川開きに合わせて売り出し、江戸中の話題となるほど大好評となる。
 今回は、その知恵を出し合う奮闘にワクワクしながら読むことが出来る10巻だった。