高田郁著『 あきない世傳 金と銀(九)淵泉編 』を読む

 この『あきない世傳 金と銀』シリーズは、江戸時代に「買うての幸い、売っての幸せ」をモットーに、呉服商を営む女商人の物語。

    f:id:naozi:20200917204755j:plain

  主人公の幸。学者の子として生まれるが、兄や父の死別があり、9歳で大坂・天満の呉服商「五鈴屋」に奉公に出される。
 商家では「一生、鍋の底を磨いて過ごす」と言われる女衆の身分ではあったが、番頭に才を認められ、幸自身も徐々に商いに心を惹かれ、知識を得ようとして、商人としての幸の人生が始まる。
 番頭の「商いの戦国武将になれる器」との言葉通り、幸は見込まれて「五鈴屋」の店主の妻・ご寮さんとなって、商いの世界でその才能を発揮する。
 「五鈴屋」の六代目店主が亡くなり、大阪では「女名前禁止」という掟ながら、暖簾を繋げるための異例の一時的処置として七代目店主となった幸は、亡夫との約束でもあった江戸に念願の店を出す。
 ものの考え方、着物に対する好みも、大坂とはまるで異なる江戸。知恵をしぼり、いままでの大阪での呉服商の常識を覆すような工夫をしながら、生まれたばかりの江戸店を育てる。

f:id:naozi:20200917204858j:plain7巻では、もとは侍の裃に用いられていた「小紋染め」を、町人にも着れるものに誕生させた江戸店誕生1年間の奮闘の物語だった。
 8巻では、さらにそれを誰でも着られる、男女に好まれる「江戸小紋」へと知恵をしぼる物語なのだが、妹の結に大両替商からの後添えの話があるが幸は断る。さらに幕府からは千五百両の献上金を命じられるという難題も。江戸での4年目の呉服商いに次から次と難題が降りかかる。

f:id:naozi:20200917204858j:plain今回の9巻は、新たな図案で末長く町人に好まれる「江戸小紋」の型紙が完成したが、それを持って妹の結が、こともあろうに断ったはずの大両替商・音羽屋へ。
 肉親の裏切りに打ちのめされる江戸店主の幸。それを型彫師の機転により危機を脱し、妹の結が店主となった呉服商日本橋音羽屋と同時販売を始め順調な商いと思いきや、呉服仲間の組合から除名される事態となり、絹織呉服商いが出来なくなって、やむなく安価な木綿太物商いに。
 そんな絶望の淵に突き落とされながらも、五鈴屋江戸店の主従は知恵を絞り、新たな商いとなる道を模索する。
 それで生まれたのが、湯上がりの部屋着であった湯帷子(ゆかたびら)を、気軽に人前でも着ることが出来る「浴衣」を考案する。
 それに活路を見出すとところで9巻は終わるのだが、実にハラハラドキドキ、次々に降りかかる難題を、知恵をしぼり乗り越える展開が面白い。

f:id:naozi:20200917204858j:plainこの9巻の「淵泉編」というタイトル
 絶望の淵に突き落とされながらも、こんこんと湧き上がる泉のように、知恵を絞り、新たな活路を見つけるところから、著者は付けたのかと読後に分かる。