高田郁著『 あきない世傳 金と銀(六) 本流篇 』を読む

 この『 あきない世傳 金と銀 』シリーズも、第6巻となった。
 3年前の2月に第1巻が刊行されて以来、僕は出るたびに読み続けている。

 今回も、高田郁の時代小説においての情景描写のうまさ、筆力に感心しながら、最後まで楽しく読ませてもらった。

     f:id:naozi:20190308214844j:plain

 -- 菩薩の涙にも似た慈雨が、昨夜来、天満の街を密やかに潤している。連福寺の本堂にも湿り気を帯びた匂いが忍んで、初七日の読経にしっとりと添うた。--


 第6巻の冒頭の文章も、このような情景描写で始まる。
 大坂天満の呉服商「五鈴屋」店主六代目徳兵衛が急逝したところから物語はスタート。
 主人公の幸は、夫亡き後、大阪の商人の「女名前禁止」いう掟がある中、天満組呉服仲間の承認を得て、3年の期限付きで七代目として暖簾を引き継ぎ、かねてからの夢だった江戸への進出「江戸店」開店に向けて、知恵をしぼり、慎重に準備を進めて、それを果たすまでのストーリーだ。
 商習慣も人の気質もまるで違う江戸で、「五鈴屋」のモットーの「買うての幸い、売っての幸せ」をどう顕すか、知恵を出し合い、工夫をしての、江戸店開店への道のりの展開が実に面白い。


 この「買うての幸い、売っての幸せ」を本書225頁では、次の様に説明している。
 -- 自分たちが扱う品に対し、「売りたい」と思う気持ちはとても大切だ。しかし、それがお客の「買いたい」品であるかどうか、見定めることはより重要だろう。お客の「買って良かった」という気持ちがあってこその「売って良かった」だ。-- 


 このような、商人として、「五鈴屋」としてのモットーを、江戸店でも根付かせようと、その道を求め探る過程が、この物語の醍醐味となっている。