高田郁著『 あきない世傳 金と銀(十二)出帆篇 』を読む

 最近、TVドラマに興味が湧かず、繰り返し繰り返しのコロナ関連ニュースと、昨日までは感動感動とキャスターが騒ぐ様に飽きて、夜はほとんど読書時間になっていた。

  

 この『 あきない世傳 金と銀 』シリーズは、江戸時代に「買うての幸い、売っての幸せ」をモットーに、呉服商を営む女商人の物語だ。
 半年に1巻ペースで出ていて、僕は楽しみに読んでいる。

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 僕は著者の高田郁さんの江戸の風情描写が好きで、惚れ惚れしながら毎巻読んでいる。
 例えば・・・、
立秋を三日後に控えたが、残暑は手を緩めない。風はそよとも吹かず、陽射しは容赦なく照り付ける。蒼天にむくむくと白雲は湧けど、雨をもたらす気配もない。屋内に逃げ込んだところで、暑さからは逃れようもなかった。」
「かんかんかんかん、と賑やかな鳴き声が、頭上から降ってくる。不意の騒音に道行くひとびとが揃って天を仰げば、楔形に群れを組む鳥影が映る。真雁の渡りだった。」
「朝夕の冷え込みが削がれ、大川の土手が若草で覆われ始めた。桐の花の芳しい香りが漂い、風に揺れる柳の新芽の初々しさに、目を奪われる。」

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 今回の12巻物語展開は、浅草田原町に「五鈴屋江戸本店」を開いて十年。主人公の店主の幸も40歳。
 書籍紹介に藍染め浴衣地でその名を江戸中に知られる五鈴屋ではあるが、再び呉服も扱えるようになりたい、というのが主従の願いであった。仲間の協力を得て道筋が見えてきたものの、決して容易くはない。因縁の相手、幕府、そして思いがけない現象。しかし、帆を上げて大海を目指す、という固い決心のもと、幸と奉公人、そして仲間たちは、知恵を絞って様々な困難を乗り越えて行く。源流から始まった商いの流れに乗り、いよいよ出帆の刻を迎える。」とあるように、
 「浅草太物仲間」から呉服も扱えるように「浅草呉服太物仲間」への許可に幕府からの膨大な冥加金請求も智恵をしぼって解決し、仲間同士で取り扱う「家内安全」文字をちりばめた小紋染めの「呉服切手」という、いまでいう商品券の商いを考え出したりする。
 さらに、江戸暦には記されていなかった日食現象事件も、幸のお客を思う心が功を奏して五鈴屋江戸本店の呉服商いは益々繁盛する。
 今巻はそれらの展開を楽しく味わいながら一気読みだった。