高田郁著『 あきない世傳 金と銀(十一) 風待ち篇 』を読む

 この『あきない世傳 金と銀』シリーズは、江戸時代に「買うての幸い、売っての幸せ」をモットーに、呉服商を営む女商人の物語。
 半年に1巻ペースで出ていて、僕は楽しみに読んでいる。
 今回で11巻だ。

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 主人公の幸。学者の子として生まれるが、兄や父の死別があり、9歳で大坂・天満の呉服商「五鈴屋」に奉公に出される。
 商家では「一生、鍋の底を磨いて過ごす」と言われる女衆の身分ではあったが、番頭に「商いの戦国武将になれる器」と才を認められ、商人としての幸の人生が始まる。
 幸は見込まれて「五鈴屋」の店主の妻・ご寮さんとなって、商いの世界でその才能を発揮し、念願の「五鈴屋江戸本店」を出店。
 ものの考え方、着物に対する好みも、大坂とはまるで異なる江戸。知恵をしぼり、いままでの大阪での呉服商の常識を覆すような工夫をしながら、生まれたばかりの江戸店を育てる。
 その主人公・幸や奉公人たち、型彫師や型付師たちと知恵を寄せ合って奮闘し、今に続く「江戸小紋」や「浴衣」が考案する過程と、それに降りかかる難題、困難を乗り越える様が面白い。

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 たとえば、7巻では、もとは侍の裃に用いられていた「小紋染め」を、町人にも着れるものに誕生させた。
 8巻では、さらにそれを誰でも着られる、男女に好まれる「江戸小紋」へと知恵をしぼるが、幕府からは千五百両の献上金を命じられるなど、江戸での呉服商いに次から次と難題が降りかかる。
 9巻は、新たな図案で末長く町人に好まれる「江戸小紋」の型紙が完成したが、それを妹の結が無断で持ち出し、それを手土産に幸の反対を振り切って大両替商・音羽屋へ嫁入りし、呉服商日本橋音羽屋を開店。肉親の裏切りに打ちのめされるが、型彫師の機転により危機を脱し、日本橋音羽屋と同時販売ができたと思いきや、同業の客を奪ったと因縁を付けられ呉服仲間の組合から除名される事態となり、絹織呉服商いが出来なくなって、やむなく安価な木綿太物商いに。
 10巻では、絹織呉服仲間を追われ、木綿太物商いとなった五鈴屋江戸本店の新たな木綿太物商いの道を成し遂げる。この巻で新たに生まれたのが、湯上がりの部屋着であった湯帷子(ゆかたびら)を、気軽に人前でも着ることが出来る藍染め柄模様の「浴衣」。

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 今回の11巻では、困難が罹ると風説がある「十年の辰年」に、実際に起こった大火災と、その災難の様子とそれに伴う物価の上昇など、江戸庶民の困難な生活の様子が描かれ、そんな中でも値上げで一時的な利益を得るでなく、さらに暗い世の中に希望を見出し、庶民に受け入れだした「浴衣」を『のちの世に伝えられるものに育てたい』と、買い占めがされている白生地を、浅草太物仲間へ融通し合って、型付技術も共有し、難局を切り抜けたり、勧進大相撲興行の際の力士に着せる「浴衣」受注を、これも五鈴屋江戸本店だけでなく、浅草太物仲間たちと共に栄える商いにするという、主人公・江戸本店主の幸の知恵活躍の物語だ。