町田市立自由民権資料館の特別展に行く

 我が家から車で15分ほどの所に、町田市立の「自由民権資料館」がある。
 僕はそこで催される企画展を楽しみにしていて、時々訪れる。
 現在企画されているのは、「町田と江戸-ヒトとモノの交流史-」特別展

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  自由民権資料館は、鎌倉街道と芝溝街道が交差する近くの芝溝街道沿いにたたずむ、白壁に圧倒される立派な建物。

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 今回は車でなくバスを利用していったので、汗をかきながら入館したのだけれど、冷房が効いた館内は快適。入館者も数人。中学生らしい女の子が2人、夏休みの自由研究のテーマにしたのだろうか、常設展示を懸命にノートに書き写していた。
 僕は、目的の特別展の展示室へ。

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 今回企画の資料をもらって入室

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 この資料には、
日本橋からほぼ10里(約40km)圏内にあった町田市域の村むらは、幕府領や旗本領が多く、幕府のお膝元として、他の地域よりも大きな規制や負担を強いられることもありました。他方で、領主の御用や訴訟などで頻繁に訪れる場であった江戸は、奉公先や親戚が住む場でもあり、時に出店して経済活動をする場にもなるなど、身近な存在でもありました。」とある。
 展示は、
  1.江戸の拡大と周辺地域
  2.幕府と町田の村むら
  3.領主と領地
  4.働く場としての江戸
  5.村びと、江戸へ訴え出る
  6.江戸へ関心
  7.江戸での買物
  8.江戸への販売と進出
  9.知識の伝播
 このように、町田と江戸との関係が、分かり易く展示してあって、町田市に住んでいる者にはなかなか興味ある内容だった。


 興味を持って観た内容を、ちょっと記してみると、
 例えば、町田の村むらの多くは幕府領で、給料を支給されていた旗本に知行地として与えられ、ほとんどが「旗本領」だったこと。
 そして、鷹狩りを好んだ徳川家康や、八代将軍徳川吉宗の「狩場」があって、展示物の中に、そのための人足集めの「猪鹿追込みのための人足申付る」があったり、「御捉飼場内での魚取り禁止」と獲物の餌になる魚取りを禁じていたのがあった。

 

 僕が一番、今回興味を覚えたのが、領主である旗本と領民との関係
「毎年、諸年貢だけでなく、臨時の資金調達や、火災・自然災害などで被災した際の生活再建に必要な資金や物資の調達など、村は領主のさまざまな要求に対応」している。
 そこに展示してあった「旗本・神谷氏の年間支出」の内訳。

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  ・殿様夫婦の小遣いと服代 13%
  ・家族の小遣いと服代など 12%
  ・御役金など定期入用金  8%
  ・家臣給金など      30%
  ・定期入用金       8%
  ・台所入用金       13%
  ・年中行事        5%
  ・奉公人給金       1%
  ・臨時入用金       10%
 江戸中期以降は、この旗本の財政が悪化し、先納金や御用金などの要求が、村むらの大きな負担になったらしい。「領主屋敷内長屋類焼につき普請用材調達命令」「領主への御救米要求」「領民からの借金」書類などが展示してあった。
 それに対して領民は、単に金銭を負担するだけでなく、村役人層が旗本の財政再建の意見書を出しているのだ。
 こちらは、領主が出した「借用書類」

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 これが、領民から出された「支出削減案」

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 そんな領民の財政事情はどうだったのかと思ったら、草薙家の「金銭出入帳」がグラフになって展示されていた。

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   ・家業     25%
   ・暮らし    22%
   ・冠婚葬祭費  33%
   ・小遣い    2%
   ・江戸小遣い  3%
   ・領主負担   15%
 説明文の中に、支出金101両余、草薙家当主及び家の者小遣い5両余、当主が江戸で使った小遣い3両余とあったので、この「草薙家とは、どんな領民なのか?」と興味を持って、事務室にいた学芸員に質問したら、「草薙家は組頭だったが、酒屋とかしょうゆ屋を営み、農民はもとより領主の旗本にもお金を融通するほどの領民だったようです」と、資料を開いて説明してくれた。
 「組頭」は、江戸時代の村役人の一種。村方三役のなかで、名主、庄屋に次ぐ役である。幕末に小野路の名主・小島家が新選組を支援していたのは知っているが、その下の組頭にも、こんな裕福な領民がいたことに驚く。また、冠婚葬祭にその支出の3分の1を費やしているのにも驚く。

 

 学芸員が見せてくれた資料なども読んでいたら、たっぷり2時間も費やしてしまった。