高田郁著 『 あきない世傳 金と銀 』 (五)を読む

 僕の好きな作家の一人・高田郁さんの『 あきない世傳 金と銀 』 シリーズの第5巻 『 転流篇 』 が、先月刊行されたので、早速、読んだ。
       
 大坂天満の呉服商・五鈴屋の店主の女房となった主人公・幸の波瀾万丈な人生の物語。
 幸は、五鈴屋が大事に守っている「買うでの幸い、売っての幸せ」をモットーに、商売の才覚を発揮し、奉公人らと心をひとつにして、商いを広げていく。
 様々な危機を乗り越えながら、前向きに商売の工夫をする展開と、幸を取り巻く人達との人間模様の展開が、実に巧みに読者を惹きつけて、最後まで読ませてくれる。
 そして、この第5巻の終わり方も、主人公・幸が、やっと仲睦まじい夫婦の幸せを実感しながら、江戸店出店へ向け計画している矢先、夫が倒れるというところで終わっている。
 読者にとっては、またまた、続編の刊行が待ち遠しくなる結末だ。

 
 もう一つ、僕は高田郁さんの文章が好きだ。例えば、こんな描写が特に好きだ。
<本書270頁>
 楓(かえで)の枝に張られた蜘蛛(くも)の巣に、朝霧が珠(たま)模様を作って煌(きら)めいている。
 光の加減か、露の珠は、赤や黄、緑、青、柴と眩(まばゆ)い色を放った。そのうちに新吉あたりが見つけて巣を取り払うだろうけれど、幸はその美しさに、作業の手を止めてうっとりと見惚(みと)れる。
<本書285頁>
 音のない、静かな夜だった。
 桟(さん)で区切られた障子紙の向こうに、青白い夜が広がり、楓の裸樹(はだかぎ)が影絵のように映り込んでいる。時折り斜めに飛ぶのは、雪の欠片(かけら)だった。
 夫の胸に抱かれて、幸はまさに眠りに落ちようとしていた。