西條奈加著『 まるまるの毬 』を読む

 西條奈加って、どんな作家のなのだろう。今回、直木賞を受賞したのに僕はまだ彼女の作品を読んだことがない。
 直木賞受賞作の『 心淋し川 』も読んでみたいが、先ずは文庫化されている吉川英治文学新人賞『 まるまるの毬(いが)を読んでみた。

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 時代小説では、『 あきない世傳 金と銀 』シリーズを書いている高田郁が好きなのだが、西條奈加もほのぼのとした家族愛というか、江戸庶民の暮らしの中の温かい人間模様を描いていて、ますます直木賞受賞作の『 心淋し川 』が読みたくなったって感じ。

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 物語は江戸時代後期。
 旗本の次男という武家の身分を捨て菓子職人になった治兵衛。
 妻子を連れて全国の菓子を求めて旅をしながら技術を習得。
 各地を巡って16年。旅の途中で妻がなくなり、江戸に戻って開業。
 店を手伝う娘は左官職人と所帯を持って孫ができるが出戻り。
 その娘のお永と孫お君の親子三代で営む和菓子屋「南星屋」が、この物語の舞台。

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 商う和菓子はどれも各地で覚えた庶民の懐に優しいものばかりで、三人で作れる量の「売れ切れ御免」の商売だが、日ごとに変わるお菓子を楽しみにしている人気店。
 しかし、治兵衛の血筋には、お上と繋がるとんでもない秘密がある。
 孫娘の縁談も、その血筋が影響して事件が起こる。
 窮地に立たされる三人だが、全国で習得した和菓子の知識と、今までの地道で正直な商売で築いた人間関係と、血の繋がりはないが僧侶となったお菓子好きの兄も含めた家族愛で、その苦境を乗り越え、最後には治兵衛独自の和菓子に辿り着く。
 そんな、ほのぼのとした気分で、とても心地よく読み終わることができる物語だった。