3月に入って読んだ2冊の文庫本

 最近、TVドラマは日曜日夜のNHK BS『船を編む~私、辞書つくります~』だけは観ているが、それ以外はほとんどスルーして、読書の時間にしている。番組時間に拘束されることなく、いろいろな作家の世界に浸る方が、なんか自由だなあ~と読書虫が囁いている。
 そんなことで、3月に入ってから2冊の文庫本を読んだ。

 

◇高田郁著『契り橋 あきない世傳金と銀・特別巻上』を読む
 高田郁さんの江戸庶民物語『あきない世傳 金と銀 』シリーズは、江戸時代に「買うての幸い、売っての幸せ」をモットーに、呉服商を営む女商人の物語なのだが、2022年の夏に最終巻の13巻が終わって、昨年9月にその特別巻(上)が出て、今回、特別巻(下)「幾世の鈴」が出た。

                 

 僕は高田郁さんの江戸の風情描写が好きでシリーズを読んでいたのだが、このシリーズもこの特別巻(下)で最後だと知って、早速読んだ。                 
 前回の特別巻(上)では、『あきない世傳 金と銀 』シリーズに登場する4人を主役に据えた4つの短編集だったが、今回の特別巻(下)では、3つの短編集。
 読者なら気になっていた主人公・幸の妹・結のその後や、五鈴屋の暖簾が100年続いて、次の百年に繋いで行く決意などが描かれていて、ホッとしながらこのシリーズを締めくくることができる内容だった。
 蛇足になるが、空に飛ばす凧(タコ)のことを、関西では(イカ)と言っていたことは知っていたが、その漢字が「紙鳶」と「紙のトビ」と書くことや、ユキヤナギのことを「小米花(こごめばな)」と言われることも、今回、これを読んで知った。確かにユキヤナギの小さな白い花々は「小米花」と呼ぶに相応しいかもしれない。

 

◇河崎秋子著『鳩護(はともり)』を読む
 前にも書いたけれど、直木賞を受賞した北海道の別海町出身の作家・河崎秋子さんの『ともぐい』を読んだ以降、彼女に興味を持って、『土に贖(あがな)う』『鯨の岬』『肉弾』『締め殺しの樹』『颶風(ぐふう)の王』を読んだ。
 だいぶ河崎秋子ワールドにハマっていたけれど、彼女と一緒に今回の直木賞を受賞した万城目学という作家の『八月の御所グランド』も読んでみようと、ブックオフに寄ったら、その前に河崎秋子さんが昨年文庫でだした『鳩護』が目に止まって、「これはどんな内容なんだろう」と、またまた興味が湧いて買ってしまった。

                

 この『鳩護』は、前に読んだ作品とはだいぶ違う。
 河崎さんの人間を含めた〝生きとし生けるもの〟の命のやり取りがリアルに描かれた骨太な作品とは違って、物語の舞台も北海道でなく東京で、出版社勤務のアラサーの女性が主人公。相手の生き物も、熊や鹿などでなく、街中の公園でよく見かける「鳩」。
「へぇ~、こんな題材も、河崎さんは書くんだ」と思いながら、ファンタジーぽっい物語の展開に、ついつい引きずられて最後まで読んだ。
 『ともぐい』や『締め殺しの樹』や『颶風の王』で、かなり感動的ショックを感じていた僕としては、「河崎さん、何をこの作品で言いたかったのかな?」と未消化の部分はあるが、物語としてはそれなりに面白かった。