直木賞作家・河崎秋子の紡ぎ出す作品にハマって

 『ともぐい』直木賞を受賞した北海道の別海町出身の作家・河崎秋子さんの作品に、いま「ハマって」いる。
 受賞作『ともぐい』では、厳しい自然の中で熊も鹿も兎も、そして人間も、同じ〝生きとし生けるもの〟としての命のやり取りが、リアルに描かれて、その世界に惹き込まれてしまい、読後に「この河崎秋子という作家は、他にどの様な作品を・・・」と興味を持って、今回、読んだのが、短編・中編を収録した文庫本2冊。

 1冊は『土に贖(あがな)う』、もう1冊は『鯨の岬』だ。

                

 『土に贖う』は、明治から昭和初期にかけて北海道を舞台に、時代の推移とともに栄枯盛衰する産業を題材に、それに翻弄されながらも過酷な自然の中で必死に生きる人間の生き様を描いている7編の短編集だ。
 北海道にそのような産業の栄衰があったのかと、僕は知らなかったので興味を持って読んだ。 

                     

    それは、養蚕業であり、ミンクの養殖、ハッカの栽培、野鳥の羽毛採取を目的とした捕獲、蹄鉄など運搬馬関連の仕事、煉瓦建築需要の煉瓦生産産業などだ。

 

 そして『鯨の岬』は、 2022年書下ろしの表題作と、2012年に北海道新聞文学賞を受賞した「東陬遺事」の中編2編。

 とにかく、河崎秋子さんが紡ぎ出す作品は、「生と死が隣り合わせに生きざるを得ない」人間の生き様を、リアルに描き、中編、短編とは思えない読み応えある作品群なので驚く。
 そんな河崎秋子文学の世界を、作家の松井今朝子さんは『土に購う』巻末の解説で、次のように評している。

   まさに、その通りだと思って引用させていただく。 
「河崎作品は観念に先立って、圧倒的なリアリティ を有する筆致の描写が緊密に結びつくことで、現実の厳しさや凄まじさを再現しながら、そこに打ち勝つ本源的な生命力を蘇らせる小説だ」と評し、さらに「河崎さんの強みは、厳しい自然と対峙し、文字通り地に足のついた生業で培われた、 羨ましいほどにタフな心身の生みだす、現代では実に稀な逞しくもおさおさしい筆力で あろう」と述べている。