北方謙三著『 チンギス紀(八)杳冥 』を読む

 ユーラシア大陸に拡がる人類史上最大の帝国を築いたチンギス・ハーンの生涯を描く北方謙三さんの「 チンギス紀 」シリーズの第八巻『 チンギス紀(八)杳冥 』を読み終わった。

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 前回の第七巻は、モンゴル族の一氏族・キャット氏の長だったテムジン(後のチンギス・ハーン)が、同じモンゴル族のジャンダラン氏とタイチウト氏とメルキト族の連合軍に勝利し、モンゴル族全体の長となり、いよいよユーラシア大陸という草原の覇者へ近づく一大決戦の内容だった。
 何千、何万という騎馬集団の戦いを、鳥が上空から見おろす鳥瞰的というか、あたかも戦場上空にドローンを飛ばせて俯瞰的にというか、広大な草原の中で縦横無尽に疾走する騎馬の戦いを描く、北方謙三ワールドに引き込まれた。
 今回の第八巻は、モンゴル族統一の戦いでテムジン軍に敗れた者達の動向と、同盟関係だった西の大国・ケレイト大国の裏切りによる戦いが描かれている。

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 そしていよいよ、6万騎を超える超大国のナイマン王国との戦いに向けて、鉄山の確保など周到な準備を巡らすテムジン軍を描いている。

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 もう一つ、僕は北方謙三の簡潔なテンポのある文章に酔いながら、いつも一気読みにと引きずられる。
 それは、読んでいて、モンゴルの草原のイメージがフツフツと湧くのである。
 例えば、第八巻の89ページ。
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 草原を駆けるのは、心地よかった。
 まだ羊が食む前の、草原である。これから羊群を迎え入れるのが普通だが、この地区には羊が入ってこないようにしている。
 さっきから何度もやっていることだが、テムジンは草の丈を目で測った。馬の前脚の膝が隠れるほどである。
 この時季、草はあっという間に伸びる。馬の腹に達するまでに、あと十日というところだろうか。
 そこまで伸びると、草は刈り取られる。点々と、巨大な草の山ができ、少しずつかためて四角にされていく。その山が、また秋まで置かれる。
 草原は夏になると新しい芽を育み、羊群が一度食めるほどの草を伸ばす。
 四角にまとめられた干し草は、コデエ・アラルとヌオの牧と、アウラガの本営に運ばれる。冬の間も、軍馬はそれを食むのである。
 羊にまで、それを食ませることはできない。羊は、雪を掻き分けながら、わずかに残った草を食み、冬を越すのである。急激な寒さが来れば、絶えきれずに死んでしまう羊も、少なくない。---

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 何回かモンゴルを訪問したが、6月末から7月の草原は、確かに草が伸び悠大だし、夏の終わりの草原には刈り取った草の固まりがあったし、冬の雪の中でも羊は雪を掻き分けて何かを食むいていたし、春先の草原に、痩せこけた羊や牛の死骸を目にしたことがある。