北方謙三著『 チンギス紀(十)星芒(せいぼう)』を読む

 ユーラシア大陸に拡がる人類史上最大の帝国を築いたチンギス・ハーンの生涯を描く北方謙三さんの「 チンギス紀 」シリーズの第十巻『 チンギス紀(十)星芒 』を読み終わった。

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 モンゴル族の一氏族・キャット氏の長だったテムジン(後のチンギス・ハーン)が、同じモンゴル族の各氏族との戦いに勝利し、モンゴル族全体の長となり、いよいよユーラシア大陸という草原の覇者へと向かっていく。
 
 北方謙三さんは、広大なユーラシア大陸の王(ハーン)となったチンギスの、偉大な覇者となるべくしてなった要素を、部下の語りの言葉で次のように書いている。
─(本書P238)─
 兵站を、大事にする。後方にいる人間を、大事にする。生産を大事にする。言われれば、どれもよくわかりますがね。侵略はせず、生産。そんなことを、草原の遊牧の民が、どうやって思いつくのですかね」
 「若いころ、兵の数倍を担える兵站があり、なんの役に立つのだ、と思ったものだった。一兵でも多く欲しい時に、兵站だぞ。しかし、いま思うと、兵站など、急にできるものではない。時をかけて、少しずつ築きあげていくものだ。俺は、戦場に物資を運んできた兵站部隊が、輜重(しちょう)に負傷兵を乗せて帰るのが、異様なことに見えて仕方がなかった。いまは、それがあたり前の仕事のひとつだがな」
 「その負傷兵の怪我が癒える。するとやつらは後方で働きはじめる。牧だとか、それこそ兵站の輜重とか、鉱山の坑道を掘るとか、いまじゃ後方の主力になっている」

 モンゴルの一氏族の長であったテムジンは、その時から着々と、鉄の生産や後方部隊の充実に力を入れるなど、ユーラシア大陸の王となるべく勝利する戦の構想のもとに手を打っていたのだ。

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 そしていよいよ、草原だけの戦でなく、砂漠を超えて都市の攻略も視野に入れた部隊編成をする。
 草原の戦は、騎乗した猛将が敵を蹴散らしたり、騎馬隊が自在に陣形を変えながらぶつかり合ったりする戦闘が中心。
 だが、敵都市の攻略では、城を包囲する歩兵、攻城兵器を使う工兵が投入され、騎馬隊と連携しながらの戦い。


 いよいよ、中国北半を支配した女真族の王朝の金国攻略へと向かう。