今年は「東日本大震災」から14年、伊予原新著『ブルーネス』を読む

 NHKEテレ「100分de名著」で、2月に放送していたフランスの社会学エミール・デュルケームの『社会分業論』や、3月から始まったドイツの哲学者ヘーゲルの『精神現象学』が、「分断が進む現代社会において、意見や価値観の違う他者と共に生きるとは?」的なテーマなのだが、放送の聴講だけでは未消化だったために、その解説テキストを読んでいたり、やっと手に入ったクイド・バルブイアーニ著(栗原俊秀訳)の『人類の祖先に会いに行く』などを読んでいたのだが、3月11日を前に、読書情報交換友人から「もし、読んでいなかったら、いま、伊予原新の『ブルーネス』がお薦め」と言われて、それらを中断して、早速読んでみた。

    

 東日本大震災は、2011年3月11日14時46分頃に発生。
 あの巨大津波の映像に唖然としたり、その後の原発事故に驚いたり・・・。それらが自分自身の中で風化していることは否めない。
 そんな僕に、改めて「この日本は地震大国であり、火山大国である」と認識せざるを得ないというか、再認識に十分な意味をもつ物語だった。

 著者の伊予原新さんは、前にも書いたが神戸大学理学部地球科学科卒、東京大学大学院理学系研究科博士課程修了という理系の研究者作家である。
 その知識を駆使しての作品だけあって、物語に登場する研究者たちは、予知することも被害を最小限にする手立てもなく、「想定外」という言葉を発しながら、東日本大地震での辛く苦しい経験を、トラウマ的に抱えた研究者たち。
 その経験を二度と味わいたくないと、数々の困難を乗り越えて研究に取る組む姿は、感動という二文字では言い表せないストーリーの展開となっている。

 この物語の解説は、神戸大学海洋底探査センター教授・センター長の巽好幸(たつみ よしゆき)氏が書かれているのだが、最後に「世界一の変動帯に暮らす覚悟」と題して次の様に記されていることを抜粋紹介しておく。
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 ここで忘れてはならないのは、地震そして津波、さらには大規模噴火などの「超巨大災害」は、今日幸いにして起きなければ、明日は発生確率が上がるということだ。まさに「ロシアンルーレット」である。
 頻発する地震や火山噴火を経験してきた日本人は、八百万神信仰で象徴されるように、荒ぶる自然を神として畏敬をもって接し、このような試練と共に暮らしてきた。そして仏教が伝来するとその命題である「無常観」を受け入れ、さらにはそれを儚さに対する「美意識」へと昇華させてきた。こうして現代日本でも、地震津波、それに火山災害に度々見舞われながらも、ある種の「諦念」を持って、あるいは恣意的に試練に蓋をするように今日を生きることに集中している。さらに悪いことに、人間は「自分だけは大丈夫だろう」と思い込む無謀な正常性バイアスに溺れやすい。
 しかし変動帯日本列島が、寺田寅彦が言うように「厳父のごとき厳しさ」の顔を持つことは明瞭な科学的事実でもある。つまり私たちはいつか必ず超巨大災害に見舞われる運命にある。全く幸運にも自らが遭遇しなくとも、次の世代、さらにその次の世代の難儀を最小限に抑える術を考えることこそ、今の世代の責任であろう。この作品は、私たち「変動帯の民」が覚悟を持って試練に備えることの大切さを説いているように思える。---

 3月という、この月に読むべくして読んだ物語だった。