馳星周著『 神(カムイ)の涙 』を読む

 今年の夏に、アイヌ文化の発信を担う国の新施設「ウポポイ(民族共生象徴空間)」が、北海道白老郡白老町にオープンした。
 機会があったらぜひ行ってみたいと思っている。
 アイヌ民族を描いた小説で、昨年、直木賞を受賞した川越宗一さんの『 熱源 』は、感動する物語だったので、この馳星周さんの『 神(カムイ)の涙 』を新聞の書籍広告で知り、早速、読んでみた。

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 物語の舞台は、北海道の屈斜路湖近くの田舎町。


 「この辺りの山も樹も、かつては全てアイヌのものであった」と、アイヌ民族としての誇りを持って生きる元猟師であり木彫り職人の老人・敬蔵。
 両親の交通事故で孤児となってしまい、敬造と共に住むことになって、自分もアイヌだということを知った中学3年生の敬造の孫娘・悠。
 悠は差別され続けるアイヌから逃避して、自分がアイヌだと言うことを忘れて生活したいと町の高校を出て、将来は東京での生活を目指している。
 そんな2人の生活に、突然加わってきたのが、東日本大震災仮設住宅で母を亡くした青年・雅比古。
 雅比古は、反原発デモで知り合った仲間2人と、原発事故の責任を取らせようと当時の電力会社の会長を拉致するが、仲間の1人が死に到らせてしまうという殺人事件の共犯者。 雅比古は、いずれは逮捕されると覚悟しながら、その前に、母が大切にしていた木彫りの熊の秘密、それに繋がる自分のルーツを確認したいと北海道へ来たのだ。
 敬蔵と悠と接しながら、雅比古の祖母が、アイヌを嫌って故郷を捨てた敬蔵の妹だという自分のルーツに出会う。

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 そんなアイヌの血が流れる3人を軸に、アイヌ民族とは何か、和人のアイヌに対する差別、アイヌを守り育てた自然などをテーマに物語は展開する。
 自然と共に、自然の全ての生きものに宿る神々(カムイ)と共に生きるアイヌ民族の誇りと差別問題。さらに東日本大震災原発事故を起こしてしまった罪とは何か。それらが絡み合う重たいテーマを問いながら、家族としての繋がり、そこに芽生える家族愛、3人の中にアイヌ民族としての誇りの再生。それらが、読後の感動として残る物語だった。

f:id:naozi:20201225172621j:plainさらに、
 アイヌ民族を誇りとしている老人・敬蔵の言葉、「人の罪を罰するのは神様の仕事。人にできるのはゆるすことだけだ。」が、孫娘の悠にも、そして犯罪者として罪を償う雅比古にも、そして、この物語の読者にも、最後にズシリと心に残る、そんな小説だった。