朝井まかて著『 すかたん 』を読む

 先日、三重県に出張したとき、奈良のサヲリさんから「これ面白いよ、読んだ?」と貸してくれたのが、僕の好きな作家・朝井まかてさんの文庫本『すかたん』

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 この文庫は、「大阪ほんま本大賞」を受賞している。僕は、大阪にこのような賞があることを初めて知った。
 「大阪ほんま本大賞」とは、①大阪に由来のある著者、物語であること。②文庫であること。③著者が存命であること。の3条件を満たしていて、大阪の本屋と問屋が選んだ「ほんまに読んでほしい本」ということらしい。
 2013年からあって、この『 すかたん 』は2015年の第3回の受賞だ。第2回では、三浦しをんさんが、古典芸能・人形浄瑠璃文楽)の若い義太夫の修行を描いた『 仏果を得ず 』が受賞している。

 この朝井まかてさんの『 すかたん 』も、大阪人が「ほんまに読んで欲しい」と言うだけあって、実に面白い。

f:id:naozi:20200722181223j:plain高田郁さんの『 あきない世傳 金と銀 』シリーズは、発売されるのを楽しみにして読んでいるが、この『 すかたん 』も同じ大阪商家を舞台にした物語。

 物語の主人公の知里はもとは饅頭屋の娘で、美濃岩村藩の江戸詰め藩士に見初められて武士の妻となるが、夫の数馬は大阪に赴任となり大阪暮らし。
 しかし、夫の数馬は大阪くらし1年で病死。後家となった知里は江戸にも帰れず、手習い師匠などをしながら長屋暮らしを始めるが、気風の違う慣れない大阪生活の中で、度々失業したり、泥棒に遭ったりしているときに、天満の青物市場の河内屋の、周りから「すかたん」と言われる若旦那の清太郎の軽い誘いで、河内屋の奥内の上女中になるのだ。
 ここから物語は、知里と清太郎を軸に展開するのだが、厳しいお家さん(女主人)から叱責されながらも、美味しいものに目がない知里は江戸とは違う大阪の豊かな食に目覚めながら、青物商いの商家の上女中として奮闘する。
 河内屋でも青物市場仲間からも「すかたん」と言われる問題の清太郎。周りの人からは不思議と好かれるがハチャメチャな遊び人で、問題ばかり起こし、知里は「いけ好かない男」と毛嫌いし、そんな若旦那の行動に呆れるも、徐々に、清太郎の野菜にかける情熱に触れ、近隣の農民と共に幻の野作りに奮闘する姿に、いつしか惹かれて、亡き夫への思いと葛藤する。
 これ以上は、これから読む人のネタバレ迷惑になるので記さないが、このような、青物商家を舞台にした、異国とも言える大阪で若くして後家になってしまった主人公の恋と成長の物語なのだ。

f:id:naozi:20200722181223j:plain朝井まかてさんは、幕末の水戸藩の史実を舞台に樋口一葉の師匠である歌人・中島歌子を描いた直木賞受賞作『 恋歌 』を読んだ以降、何冊か読んだが、僕の期待を裏切ることのない歴史小説家だ。
 葛飾北斎の娘・お栄こと画号を「葛飾応為」という天才浮世絵師の生涯を描いた『 眩(くらら)』
 長崎の出島でオランダ商館付の医師・シーボルトに仕えた若き植木職人を描いた『 先生のお庭番 』
 江戸時代前期のベストセラー作家・井原西鶴を、盲目の娘の語りで綴った『 阿蘭陀西鶴(おらんださいかく)』
 周りからは藪医者と言われながら、実は名医だった小児科医と江戸時代の医学の模様を描いた『 藪医 ふらここ堂 』
 「犬公方」と言われた徳川幕府第五代将軍「綱吉」の、人間として将軍としての苦悩を描いた『 最悪の将軍 』
 その他にも、『 花競べ 』『 銀の猫 』。 短編集の『 福袋 』などなど、実に読み応えのある作品を、朝井まかてさんは次から次と書いている。