原宿の太田記念美術館で「肉筆浮世絵名品展」

 火曜日の朝日新聞夕刊で、葛飾北斎の娘・お栄こと葛飾応為(おうい)の代表作「吉原格子先之図」が紹介されていた。

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 この葛飾応為の肉筆画が、現在、原宿にある太田記念美術館の「肉筆浮世絵名品展」で公開されていることを知った。


 会の新聞「けんさん・2月号」の編集も終わって、印刷屋さんから校正ゲラ待ちの一段落している時なので、それを観たいと思って帰宅時に太田記念美術館に寄った。

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 この太田記念美術館は、浮世絵専門の私設美術館で、東邦生命保険相互会社会長だった太田清蔵氏(故人)のコレクション総計1万4千点を所蔵している美術館である。


 今回の「肉筆浮世絵名品展」には、開館40周年を記念して、その所蔵品の中から初期浮世絵の菱川師宣からはじまり、鳥居清長や喜多川歌麿葛飾北斎歌川広重といった絵師たち、さらに明治時代に活躍した小林清親月岡芳年まで、浮世絵の歴史を知ることができる肉筆画の作品を展示してあった。
 (パンフレットから)

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 肉筆画とは、絵師が下絵を描き、彫師、摺師との分業によって生み出される浮世絵版画と比べ、絵師がその完成までを手作業で仕上げる一点物。
 絵師それぞれの、その高度であり些細な筆遣いに驚く作品群が展示されていた。

 葛飾応為の代表作「吉原格子先之図」は、横・約40cm弱×縦・約26cmという、たかだかB4サイズよりちょっと大きい作品だったが、夜の吉原遊郭を超技巧的に、超細密的に、光と影を、幻想的に描いたものだった。

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 これ以外の展示されている作品も、ひとつ一つ、じっくりと鑑賞に値するものばかり。
 その中には、旧鴻池コレクションの扇子に描かれた肉筆画も展示ケースに数点飾られてあり「北斎も含めた絵師達は、このような扇子の絵も描いたのか」と魅入った。

 

葛飾北斎の娘・お栄こと葛飾応為
 今回の展覧会を観るきっかけとなった葛飾応為に興味を持ったのは、以前に読んだ朝井まかてさんの『眩(くらら)』を読んだからだ。

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 その時にブログに書いた内容の一部を転載する。 

 今回、読んだ『眩(くらら)』は、葛飾北斎の三女・お栄こと画号を「葛飾応為」という天才浮世絵師の生涯を描いた物語だ。
  お栄は、北斎に「美人画では敵わない」と言わせたほどで、西洋の陰影表現を体得し、全身全霊、生涯のすべてを、絵を描くことに投じた女性なのだが、生没年未詳の謎の天才女絵師なのだ。
 そのお栄こと葛飾応為と、父であり師匠である葛飾北斎を、朝井まかては見事に生き生きと描き切って、浮世絵師たちの制作作業の様子から、浮世絵業界の人間模様、北斎の代表作「富嶽三十六景」や、応為の代表作「吉原格子先之図」などを描いた様子までを、実にリアルに書いているのだ。

 たとえば、天才女絵師と言われるお栄を、酒と煙草が好きな、気風のいい、次のような女性に描いているから面白い。(実際にそういう女性だったとも言われているらしい。)
── 気がつけば外はもうとっぷりと暮れていて、やけに肌寒い。お栄は洟を啜りながら火を熾した。長火鉢に小さな炭を入れ、手をかざす。まだ寒くて、掻巻をひっかぶりながら酒を探した。文机の前に置いたままになっていた徳利を引き寄せ、絵皿を選んで猪口の代わりにする。
 「燗にしたいが、それも面倒だからね」
  独り言を言うと、少し気が落ち着く。立て続けに三杯を干した。さらに何杯か呑むと、ようやく寒気が引いてきた。人心地がついて行灯に灯をともし、煙草盆を引き寄せる。一服ゆらせると、いつも通り旨い。ほっとした。──(本書320頁)

 
太田記念美術館の地下に、こんな「てぬぐい屋」があった。

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