文庫・マーギー・プロイス著/金原瑞人訳 『 ジョン万次郎−海を渡ったサムライ魂−』

 幕末を描いた歴史小説によく登場するジョン万次郎については、井伏鱒二をはじめとして、童門冬二山本一力などが、様々な視点から物語を書いている。
 波瀾万丈のジョン万次郎の生涯については、僕も興味がある。
 今回、読んだ『 ジョン万次郎−海を渡ったサムライ魂−』は、アメリカ人が、アメリカに残る資料を基にしながら、実際に来日して取材もし、ジョン万次郎の青春時代を書いた作品だというので読んでみた。
        
 訳者の金原瑞人氏が「訳者あとがき」で、ジョン万次郎の生涯を簡単に記しているので、参考に転載させていただく。
「土佐の貧しい漁師の息子に生まれ、14歳のときに乗り組んだ漁船が嵐で漂流、無人島にたどりつき、やがてアメリカの捕鯨船に救出され、その船長の養子になって教育を受け、約10年後、日本に帰り着く。すぐれた才能と海外の広い知識を買われて、平民の身でありながら幕府直参に取り立てられ、中濱万次郎と名乗ることになる。以後、幕末から明治にかけて、日本に海外事情を伝え、開国を勧め、また英語教育に努め(教え子に福澤諭吉大鳥圭介津田真道西周後藤象二郎岩崎弥太郎ら)、アメリカの科学技術の紹介などに尽力する。」 
 このような彼の生涯の、1841年に四国沖での遭難から、アメリカでの育ちと経験を経て、1851年に当時の薩摩藩に服属していた琉球(現・沖縄)に上陸し帰国、翌年に故郷の土佐(現・高知県)に帰るまでの、彼の多感な青春時代を生き生きと描いている物語だ。

 この物語を読むと、万次郎という少年が如何に、不思議な強運と、好奇心と、類い希な素質を備えていたかがよく分かる。
 人種差別の蔓延っている時代に、救出された捕鯨船の船長の養子となったり、バーレット・アカデミーで英語・数学・測量・航海術・造船技術などを学び首席になっている。
 アメリカ滞在中も、文化や科学技術の発展など、すべての事に興味を示して知識の取得をしている。
 さらに、帰国の資金を得るために、ゴールドラッシュに沸くサンフランシスコへ渡り、数ヶ月間、金を採掘する職に就き、その資金で日本上陸のための小舟を手に入れ、上海行きの商船に便乗し、帰国を果たす。

 この作品は、「オバマ元大統領も読んだ、全米ベストセラー!」と帯に書かれているように、アメリカで栄誉ある児童文学賞も受賞している。
 アメリカ人が、ジョン万次郎の若き姿を、生き生きと、リアルに、ロマンを織り交ぜながら描いた、すぐれた物語として一読をお薦めする。
 また、挿絵には、万次郎が描き残したスケッチも収録されていて、これも興味深い。