恩田 陸 著『 光の帝国 常野物語 』を読む

 僕が恩田陸さんの作品を読んだ初めての物語が、この『 光の帝国 常野物語 』である。

 でも、かなり以前のことで、「恩田陸って、こんな物語を書く作家なんだ」と思いながら読んだ印象的記憶だけで、ストーリーはほとんど覚えていなかった。
 そんなことで、たまたま先日、出張前の空き時間にBOOK・OFFに寄ったら、210円文庫コーナーに立て掛けてあったのが目に止まって、「もう一度、読んでみよう」と買ってしまった。

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 この短編集は、特殊な能力を持った、穏やかで知的で、権力への志向を持たずに生きる常野の一族の物語なのだが、不思議な、この一族に引き込まれてしまう。

 古典を含めて膨大な書物を読んで記憶に留めることができる家族。未来が見える少女。遠くの出来事が聞こえる老人。歳をとらない老先生の存在。時間と空間を飛び駆けることができる女性などなど。
 彼らは、ひっそりと、目立たないように、意識的に市井の人々の中に埋没して生きている。
 しかし、彼ら一族の特殊能力を戦争に利用しようとする軍部などが現れ、彼らはそれに抵抗して悲運な運命を強いられるが、助け合いながら、未来のために生き延びようとする。
 そんな恩田ワールドに引き込まれると「こんな不思議な能力を持つ人々もいるかも知れない」と思えてくるから不思議である。


 文末解説の最後に、作家の久美沙織さんは「現実の現代の世の中に生存している〝まっとうな〟人間どもよりも、ここに描かれた常野のひとびとのほうがよほど魅力的だと、思いませんか?」と投げかけているのだが、〝まっとうな〟をどう定義するかによるが、確かにそう思える。

 そんな、優しさと哀しみに満ちた壮大なファンタジーを、恩田陸さんが見事に描いている。

 恩田陸さんは、2005年に『 夜のピクニック 』で、2017年には『 蜜蜂と遠雷 』で本屋大賞を受賞しているのだが、この作品も本屋大賞ができた2004年以降に刊行されていたら、きっと受賞していただろうと僕は思う。

 
 本屋大賞ができたのは2004年からなのだが、この作品がそれ以降に刊行されていたら、きっと受賞していただろうと僕は思う。