新聞を読みながらの雑感おしゃべり

◇ヒット曲「神田川
 昨日の朝日新聞の「天声人語」が取り上げていたのは、作詞家の喜多條忠(まこと)さんのことだった。

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  一昨日、喜多條さんの訃報を見たとき、僕も一番最初に神田川の曲を思い浮かべた。

 僕たち世代にとって、あの「神田川」は特別な感傷が伴って甦る曲となっていると思う。

 三畳一間で同棲する2人。
 「貴方は もう忘れたかしら」で始まって、「若かったあの頃 何も恐くなかった ただ貴方のやさしさが 恐かった」で終わる、過ぎ去った恋を女性の心情で綴った、そんな喜多條さん作詞の曲。
 高田馬場付近の神田川で生まれた歌詞。
 僕が高田馬場の事務所で仕事をするようになったとき、「この辺りのアパートかな?」と思って歩いた記憶がある。
 「小さな石鹸 カタカタ」鳴らして帰ってきたという銭湯も、「ここかな?」と思うのがあって、僕も仕事が終わって銭湯の閉まるぎりぎりの深夜にいつもお世話になっていたが、僕が高田馬場に行った2年後ぐらいに残念ながら廃業となった。
 早稲田や高田馬場を流れる神田川は、桜の名所でもある。毎年、桜を愛でながら「神田川」という表示を見るたび、この曲の哀愁と散りゆく桜の花筏が結びついていた。
 昨日は改めて歌詞を読んで、若かりし日の感傷に浸ってしまった。

 

◇2021年「年間ベストセラー」
 一昨日の新聞に、出版取次大手の日販が、2021年の本の「年間ベストセラーのランキング」を発表した記事が載っていた。
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 この中で僕が読んだのは、本屋大賞になった町田そのこさんの小説『52ヘルツのクジラたち』だけだった。
 その読後感は8月にブログに書いた。
       https://naozi.hatenablog.com/entry/2021/08/05/184522
 虐待、障害、不倫、トランスジェンダー、いじめ、などなど、盛りだくさんの現代社会の重たいテーマを織り交ぜなから、そんな中でぎこちなく生き続けながら、生きる希望を見出す、温かい物語だった。
 この「年間ベストセラー」の中に文芸書としてもう一冊、芥川賞を受賞した宇佐見りんさんの小説『推し、燃ゆ』があった。
 この小説、確か文藝春秋の3月号に芥川賞受賞作品として載っていながら、まだ読んでいなかったことを思い出して本棚を探した。
 女子高校生がアイドルを追いかける物語で、その時は「後で読もう」と、そのままにしていたのを思い出して、昨夜、一気読みした。

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 「アイドルを追いかけることにすべてのエネルギーを使う」など、僕的には遠いと思っていた物語なのだが、不思議と一気読みさせる内容で、今年のゼストセラーになったのを納得させる作品だった。
 「アイドルがすべて・・・」の少女の心情を描いている、例えばこのような箇所がある。
──携帯やテレビ画面には、あるいはステージと客席には、そのへだたりぶんの優しさがあると思う。相手と話して距離が近づくこともない、あたしが何かすることで関係性が壊れることもない、一定のへだたりのある場所で誰かの存在を感じ続けられることが、安らぎを与えてくれるということがあるように思う。何より、推しを推すとき、あたしというすべてを賭けてのめり込むとき、一方的ではあるけれどあたしはいつになく満ち足りている。──
 評者として平野啓一郎氏は、少女の行為を「寄る辺なき実存の依存先」と表現していたが、自分の居場所を求めるというか、そこでしか生きている実感を得ることができない、そんな「人の性(さが)」の重いテーマを内包した作品だというのに気付かされた。