高田郁著『 駅の名は夜明 軌道春秋Ⅱ 』を読む

 時代小説作家で好きな高田郁さんが、時代小説にデビューする前に書いた短編ふるさと銀河線 軌道春秋 』を先日読んで「いい短編を書くなあ~」と感動したのだが、新聞書籍広告に、その続編らしい『 駅の名は夜明 軌道春秋Ⅱ 』が載っていたので、早速、読む。

    

 今回も感動の家族ドラマ9編だった。

◇「トラムに乗って」
 7歳で亡くなった娘のことが忘れられず、新婚旅行で楽しい思い出があり、娘に語っていたウィーンの街。「私も行ってみたい」という生前の娘の言葉に応えるためにウィーン街へ。そのウィーンの街を一周するトラム(路面電車)が物語に彩りを加えて物語が展開する。

「黄昏時のモカ
 前の短編で、空港で出会った老婦人がここでの主人公。夫と金婚記念に訪れようと思っていたが、その夫はなくなり一人で訪れたウィーンの街での出来事。親切に観光案内をしてくれる青年を、何か企む詐欺師ではないかと思いながらも、心を徐々を通い合う。

「途中下車」

 中学から高校と「無視」というイジメに悩む女子学生が主人公。父が亡くなったこともあり、我慢の日々から脱出したく北海道の祖父母の元に行って新しい高校に転校する。その転校の初日、「無視」されたイジメがフラッシュバックして途中下車。そこで出会った昔国鉄職員で今はレストランを営む2人の男性に出会って話を聞いてもらう。「目的地に行くために必要な途中下車もあるさ。疲れたら、降りていいんだよ。」「次の列車は、必ず来るからね。」と、前に進む希望をもらう。

「子どもの世界 大人の事情」
 「ふたりの心の中に氷が張ってしまって・・・」と、両親が離婚した小学四年生の少年が主人公。別れた父と語り合っていたオホーツクの海を見たくて一人で旅に出る。「春になったから氷は解けているよ」と父に電話。父は子供の旅先に駆けつける。感動的な父と子の信頼関係を描いた物語。

「駅の名は夜明」

 パーキンソン病認知症の妻を介護する老老介護の物語。夫もまた慢性心不全を患っている。ずっと貧しかった生活、元気な時に妻が時刻表だけで旅を思い浮かべて楽しんでいた九州へ、無理心中の旅に向かう。人生を終わらせるには、この静かな駅がいいと降りた駅。その駅の名は「夜明」。なぜかそれに光明を感じ、何事にも反応しなかった車椅子の中の妻が「おうちに帰ろう、ふたりで」という言葉に、また一緒に生きようと明日への生が甦る。

「夜明の鐘」
 雨女の2人の旧友が、またまた雨女らしく台風直下の九州への旅にでる。
 それぞれが、それぞれの事情を抱えての再会。そんな中年女性2人の物語。

「ミニシアター」

 列車内の変な悪臭から物語は始まる。犯人は老女がカバンに入れて持ち込んだネコ。乗客は迷惑行為を責め立てるが、老女の持ち込んだ猫の事情を知り、徐々に同情の気持ちにかわり、車掌に見つからないように、それぞれが画策する心情になる。そして車掌まで最後は粋な計らいをして物語が終わる。

「約束」

 駅ゾバ店で働く読書好きの女性が主人公。踏切で自殺をしようとした男を助けるが、その男性は大好きな物語を書く作家だった。助けたことが縁となり、やがてその男と結婚。しかし、長続きせず2年後にまたもとの身に。別れた作家も生活が乱れて筆は進まず、出版社からも見放されて人気作家でなくなる。2年後、作家は駅ソバ店を訪ね、再び再会。

「背中を押すひと」

 11年前に父と喧嘩をして、俳優になると家を飛び出した男が主人公。いまは役者の芽が出ず大道具係。妹から父が癌だと知らされ、一度でいいから家に帰って来てほしいと懇願される。錦を飾れぬままに「今度は主役になるかも」と偽り実家に帰る。そこでの、母との会話や、病の父との思い出の場所に父を背負って歩いたりしながら、背中の父の言葉から生きる意義を受け取る、父子の情愛たっぷりの物語。
 
 どの短編も、先日読んだ『 ふるさと銀河線 軌道春秋 』同様、心温まる結末となている感動の短編集だった。