須賀しのぶ著『 また、桜の国で 』を読み終える

 この物語は、先にもブログに書いたように第二次世界大戦時のポーランドを舞台にした物語だ。

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 ポーランド大使館の外務書記生として赴任した主人公が、ナチス・ドイツに侵攻され、戦火に染まるワルシャワで、国や民族を超えた友情と、日本人としての誇りを持ち続け、信念を貫き通す物語となっている。
 ロシア人の父と日本人の母から生まれた主人公の息子が、ホーランドに赴任するにあたって、

 父は「慎がポーランドという国に行くことを、私はうれしく思う。ロシアとドイツ、オーストリア、周囲の強国に食い荒らされ、地図から消えたことのある国。そうした国から見える世界は、今まで我々が見てきたものとはまるでちがうことだろう。そしておそらくは、それこそが、最も正直な世界の姿なのだと思う」「人が歩んだ歴史は一つだが、その姿を見る者の数だけ存在する。基本的に歴史は強国によって語られる。呑みこんだ敗者について思いを巡らせる者はあまりいない。吞みこまれた当事者以外はね。そしてその当事者だけが、イデオロギーや利害に関係がない、最も素直な世界を見ることができる」と送り出すのだが、

 その言葉は、筆者がこの物語で描き、読者に伝えたいと願っての言葉ともとれる。

 大国に囲まれ翻弄され続けた世界大戦当時のホーランドという国。その真実の姿を読者に丁寧に伝えようとして描いていることを、全編を読み終わって気付かされる。
 史実をもとにした物語ではあるが、日本人でありながらワルシャワ蜂起で共に戦う主人公が、本当に実在したかどうかは定かではない。しかし、フィクションだとしても、ホロコーストからユダヤ人を救った杉原千畝がいたように、日本人としての誇りを持ち、正義を貫いた外務書記生が存在していても不思議ではない(物語の中にも杉原千畝の名は出ている)。そんな主人公の行動に、人間として、日本人として、読む者は感動を覚える。
 久々に読み応えのある物語を読んだ気分。