季刊誌『フラタニティ』が届く

 『 ユートピアの模索─ヤマギシ会の到達点 』や『 農業が創る未来─ヤマギシズム農法から 』の著者である村岡到さんが編集長をしている季刊誌『フラタニティNo.18が届いた。
 村岡編集長の新型コロナウイルスについての政局評論などもあり、今号の特集は「中国をどう見たら良いか」だ。
 読売新聞社の北京特派員をされた経歴のある中国研究家で元滋賀県立大学教授の荒井利明さんや、中国問題の多くの著書がある大阪経済大学名誉教授の山本恒人さんが寄稿している。荒井利明さんの中国問題の話は以前に聴いたことがあるが、とても分かりやすく話された記憶がある。
 これから、じっくり読んでみようと思う。

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 この季刊誌『フラタニティには、僕も1ページの読後感想の連載枠をいただいている。
 今回で12回目。
 今号では、今年1月に直木賞を受賞した川越宗一さんの『熱源』を取り上げて紹介した。
 この著書については、前にもブログに書いたが、今号の『フラタニティ』に掲載されたものを転載する。

 

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◇川越宗一著『熱源』(文藝春秋

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激動の時代と過酷な樺太の壮大なドラマ

 この作品は、今年一月に発表された第一六二回直木賞を受賞している。「生きていれば、生き続けていれば可能性はある」と、サハリン島樺太)を舞台に、激動の時代に生を受けた人間が、挫折や絶望の中で、自分の中に蘇る「生きる熱」を頼りに、壮絶な生き様を繰り広げる物語である。
 サハリン島は、もとは無主の地であったが、やがてロシア帝国と日本が共同で領有するようになり、その後、ロシアの単独領有となり、日露戦争後には島の真ん中あたり北緯五十度から南は日本に割譲され、第二次世界大戦後には再びソビエト連邦支配下となった歴史的変遷の島であり、人が生きることをも拒むほどの極寒の島。そこで生まれ育ったアイヌ人と、ポーランドがロシアに占領されたためにロシア国籍をもつ流刑者のポーランド人を軸に、登場する人物ほとんどが実在の人物をモデルに描いた人間ドラマなのである。
 主人公の一人、樺太生まれのアイヌ人で日本人への同化政策の中で葛藤しながら生きるヤヨマネクフ(日本名・山辺安之助)は『アイヌを救うものは、決してなまやさしい慈善などではない。宗教でもない。善政でもない。ただ教育だ』と、樺太アイヌの指導者として集落の近代化や子供たちへの教育に尽力した。著書に『あいぬ物語』(樺太アイヌ語による口述を金田一京助が筆記)があり、日本初の白瀬矗中尉率いる南極探検隊に参加した人物でもある。
 もう一人は、ポーランド人でありながらロシア皇帝暗殺計画に連座して、樺太へ流刑となったブロニスワフ・ピウスツキ。一八八七年にアレクサンドル3世暗殺計画に連座して懲役十五の判決を受け、サハリン島へ流刑。囚人として大工作業で働きながら、アイヌの生活や風習を書き留めていたのをロシア地理学協会に認められて学者となった人物。写真機と蝋管蓄音機を携えて資料収集を行い、樺太アイヌ、ギリヤーク、オロッコなどの写真・音声資料を多量に残した。同時に原住民の子供たちへ「識字学校」を作ってロシア語や算術・算盤教育をした文化人類学者として著名でり、アイヌ女性と結婚し一男一女をもうけた人物でもある。
 この二人の他にも、ヤヨマネクフの幼馴染のアイヌ人・シシラトガ(日本名・花守信吉)は、ヤヨマネクフと共に南極探検隊に樺太犬の犬橇担当として参加している人物だし、ピウスツキの実弟は、一九一八年に独立したポーランド共和国の初代国家元首ユゼフ・ピウスツキである。また、アイヌ語研究の第一人者・金田一京助や、政治家であり早稲田大学の創設者の大隈重信など実在の人物が登場する。
 物語は、二人の主人公が明治政府とロシア政府によって土地と言語を奪われながら、雄々しく生き抜く様を描いているのだが、ここに登場している実在の人物の多くを、史実をなぞりながら筆者の豊かな想像力で崇高な人間の歴史として描いていることに、この作品の歴史小説としての醍醐味と価値を感じるし、既存の人物認識を新鮮に塗り替えてくれる面白さをも体験できる作品である。
 最後になるが、この物語のなかで天然痘コレラが感染拡大し、肉親をはじめ多くの住民が手の施しようなく亡くなり、アイヌ人の風習にない火葬で葬る様子が描かれている。現在また、新型コロナウイルス感染症の世界的蔓延に翻弄されている。いつの時代も未知のウイルスに人類は脅かされながらの歴史だったのかと思いながらの読後となったことも記しておきたい。