須賀しのぶという作家は、改めて読み応えのある物語を生み出す作家だと思える内容だった。
僕は須賀しのぶの作品を読むのは、これが2冊目。
前回は『 また、桜の国で 』という作品で、第二次世界大戦下のポーランドを舞台にしたひとりの日本の若き外交官の姿を描いた小説だった。
その時も、ヨーロッパ(東欧)の歴史的複雑な国際関係、それに翻弄されながら、そこで暮らす人々の姿に驚き、生きるとは何か、良心とは何か、と問われながらの物語の展開に、知的好奇心を満たされた感動を覚えている。
今回の『 革命前夜 』は、東西冷戦の象徴であったベルリンの壁崩壊直前の東ドイツが舞台である。
ベルリンの壁で隔たれた東西ドイツの歴史的事象と、そこで生きる人々の葛藤を知り得る歴史小説でもあり、隣人をも信じることが出来ないという監視、密告の非情な社会システムの中でも、愛され続ける高尚な音楽という存在の偉大さを、見事に描いた物語だった。
昭和から平成に元号が移ったその日、ピアニストを目指して東ドイツのドレスデンの音大に留学した主人公。
自分の音を求めて留学してきた憧れの世界は、誰をも信用できない監視社会だった。
日本にいるときは当たり前と思っていた自由が制限され、満足できる食料も手に入らない生活の中で、個性溢れる才能を持った同世代の音楽家たちと出会うが、音楽とは対照的な非人間的な社会システムに翻弄され、葛藤しながら様々な体験をする。
誰もが認める才能を持つ同世代の音楽家たちは、監視社会の中で生きるために、それぞれに秘密をもって生きている。街の教会で圧倒的な演奏をする美貌のオルガン奏者と親しくなるが、彼女も国家保安省の監視対象で深い秘密を持っている。
家族をも陥れる密告者の存在。自由と民主化を求める運動の激化。緊迫する国際関係。
それらが、表現豊かな音楽描写の中で、非情な人間模様として繰り広げられる。
そして、ついにベルリンの壁崩壊。
時には切磋琢磨してきた同世代のそれぞれの音楽家たちの秘密が暴かれるが、それぞれに人間としての良心の片鱗を残して物語は終わる。
最初は、登場人物の名前が覚えにくく、戸惑いながらの読み進めではあったが、後半は、その登場人物たちの思いがけない秘密の暴露というミステリー的展開。
読み応えのある小説だった。