立花隆著『宇宙からの帰還』を再読する

 立花隆さんの訃報に接したとき、僕が一番最初に浮かんだ立花さんの著書は『宇宙からの帰還』だった。
 本棚の奥のほうにあった文庫を探して開いてみたら、昭和58年1月刊行と記されていたので、読んだのは35年以上前になる。
 宇宙体験をしたNASAの宇宙飛行士一人一人に丹念にインタビューし、その体験が精神面でどのようなインパクトをもたらし、その後の人生にどのように影響したかをまとめたものなのだが、僕にとっては一番感銘を受けた書籍として記憶に残っている。

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 「これを機会に、もう一度、読んでみよう」と読み始めて、またまた新鮮な感銘を受けながら、昨夜読み終わったのだが、偶然に、テレビニュースで「82歳女性、アマゾン創業者の宇宙飛行に参加へ 史上最高齢」という報をみた。アマゾンの創業者ジェフ・ベゾス氏が7月半ばに計画している有人宇宙飛行に、1960年代に宇宙飛行の訓練を受けたウォリー・ファンクという女性が参加することになったという内容だった。
 この報に、立花隆さんが接したらどんな心境だったろうとフッと思った。
 なぜなら、本書巻末の「むすび」で、立花隆さんは、「彼らにインタビューしながら、私は自分も宇宙体験がしたいと痛切に思った。彼らと話せば話すほど、写真やテレビや活字で伝えられている宇宙体験と実体験がどれほどちがうかがよくわかるのだ。そして、私が宇宙体験すれば、自分のパーソナリティからして、とりわけ大きな精神的インパクトを受けるにちがいないだろうと思う。そのとき自分に何が起きるだろうか。私はそれを知りたくてたまらない。/その希望をもらすと、何人かの宇宙飛行士は、きみにもまだチャンスがあると慰めてくれた。私が生きている間に、ジャーナリストに宇宙旅行のチャンスが与えられるかもしれない。(中略)それにしても、私はすでに四十歳を越えてしまった。宇宙旅行に要求される健康をあと二十年保てるかどうか。その間に私にもチャンスがあるかどうか。可能性はほとんどあるまいと思いつつも、望みは捨てないで待ってみるつもりだ。」 と書いている。
 立花さんよりも2歳高齢女性の宇宙体験に、好奇心旺盛だった「知の巨人」はどう思っただろうかと・・・。

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 今回再読して、宇宙とは、月面環境とは、そこから望めた地球とは・・・と、改めて新鮮な感覚で興味を得ながら読んだのだが、特に今回惹きつけられたのは、本書の最後の部分「宇宙人への進化」だった。


 アポロ14号で月面着陸を経験したエド・ミッチェル飛行士は、宇宙体験以前から関心のあった人間のESP能力(超感覚的知覚-五感や論理的な類推などの通常の知覚手段を用いずに、外界に関する情報を得る能力-)について、この体験でのインパクトは大きく、NASAをやめて「ESP能力研究所」を設立し、科学的研究をしているという。
 ミッチェル飛行士は「私がこういう研究所を作ったのは、科学と技術はこれほど進歩したのに、それを活用する人間の叡智のほうにはまるで進歩がないために、科学技術が人類の幸せのためというより、人類に災禍をもたらすような方向に利用されつつある現状をうれえたからだ。」と述べ、長年悩み続けた科学的真理と宗教的真理の対立の問題が、無数の星が暗黒の中で輝き、その中に美しすぎるほど美しい斑点の地球を見たとき、「ああでもないこうでもないと考え続けていた」ことの答えが一瞬のうちに解決し、「世界は有意味である。私も宇宙も偶然の産物ではありえない。すべての存在がそれぞれにその役割を担っているある神的なプランがある。個別的生命は全体の部分である。個別的生命が部分をなしている全体がある。すべては一体である。一体である全体は、完璧であり、秩序づけられている、調和しており、愛に満ちている。この全体の中で、人間は神と一体だ。自分は神と一体だ。」と感じ、教団的教義でないそれを超越した宗教的真理を瞬間的に把握したという。
 さらに「歴史上の偉大な精神的先覚者たちは、この地上にいてコスミック・センスを持つことができた。これは凡人ではなかなかできることではない。しかし、宇宙では凡人でもコスミック・センスを持つことができる。宇宙空間に出れば、虚無は真の暗黒として存在は光として即物的に認識できる。存在と無、生命と死、無限と有限、宇宙の秩序と調和といった抽象概念が抽象的でなく即物的に感覚的に理解できる。歴史上の賢者たちが精神的知的修練を経てやっと獲得できた感覚を、我々は宇宙空間に出るという行為を通して容易に獲得できたのだ。だから私は、私の体験が個人的体験にとどまらず、人類にとって大きな意味があると思っている。私の体験は人類の進化史における転換期だといってもよいと思う。」と、人間が宇宙に進出することによって、人間も地球生物から宇宙生物に進化し、人類の新しい時代がはじまるという、壮大な進化論を述べている。

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 そして、アポロ9号で地球を151周したシュワイカート飛行士は、宇宙から地球を見て受けた精神的インパクトが、ジェームズ・ラブロックが仮説した「ガイア理論」の地球と生物が相互に関係し合い環境を作り上げている「巨大な生命体」、ということを認識したと述べている。そしてそれは、人間はガイアの中で生きる生物であると自覚し「人間はガイアなしでは生きられない」し、人類の進化史という観点から見たとき、何億年もの昔、それまで海にしかいなかった生物が陸にあがり、海の外は生物にとって死を意味する環境であったのに、新しい種は外に出て死の環境の中で生きる手段を身につけたという進化史の大転換にも匹敵する、何億年に一回あるかないかの進化史の一大転換点が目の前にきていると述べているのだ。

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 そんな、気になる箇所に付箋を入れながら読み進めていたら、本書の後半に付箋が集中して、やっと昨夜読み終わった。
 今夜の記述は、ここまで。