著者の原田マハ自身が、『本の話WEB』の〈自著を語る〉の中で、「書かなければいけない真実の物語」と書いているように、敗戦後まもない占領下の沖縄で、実際にあったことを題材にした物語だ。
巻末の「謝辞」で、原田マハは次のように書いている。
「本作は、サンフランシスコ在住の精神科医、スタンレー・スタインバーク博士との出会いなくしては生まれなかった。本作執筆にあたり、数々の貴重な資料の提供と、また、博士が精神科医として1948年から50年まで沖縄アメリカ陸軍基地に勤務し、ニシムイ美術村の芸術家たちと交流した記憶のすべてを語っていただいたことに、深く感謝申し上げる。」
ちなみに、表紙の写真は、ニシムイ美術村の画家・玉那覇正吉が描いた若き日のスタンレー・スタインバーク博士の肖像画である。
博士は、数多くのニシムイ美術村に住んでいた画家たちの作品を、今も大切に持っている。
このように、事実をもとにして、そしてキュレーターとしてアートに深い愛情を備えている原田マハだからこそ、この作品が生まれたのだと、読み終わって感動の覚めきらない中で、僕は実感した。
実際、物語の最後の主人公が貨物船に乗って沖縄を去る場面では、感動が込みあげて目頭が熱くなって、「電車の中でなくてよかった」と安堵しながらテッシュを使ったほどだ。
それにしても、占領下の沖縄で、アメリカ人と沖縄人の、このように美しい心の交流があったとは驚きである。
今週末に、僕は妻と沖縄に行く。
行く前に、この著書に出会えて本当に良かったと思う。
沖縄の空気も、風も、陽射しも、きっと前回の沖縄訪問時に感じたものとは違う予感がなぜかする。
それにしても、原田マハの作品は、毎回、僕を裏切らない。
映画を愛する物語の『キネマの神様』
世界一周を秘密裡に果たした女性パイロットの『翼をください』
スピーチライターを描いた『本日は、お日柄もよく』
アンリ・ルソーの絵画を巡っての物語『楽園のカンヴァス』
引きこもりの青年が米作りで人生を見つける『生きるぼくら』
ピカソの絵画〈ゲルニカ〉の謎を描いた『暗幕のゲルニカ』
などなど、僕が出会った作品は、毎回、僕に幸せな読後を与えてくれた。
今回の『太陽の棘』も、そのリストに入る、お勧めの一冊だ。