原田マハ著『 カフーを待ちわびて 』を読む

 今回、原田マハさんの沖縄を舞台にした小説カフーを待ちわびて 』を読んだ。

 
 僕がこれまでに原田マハさんが沖縄を舞台に書いた小説は2作品読んでいる。
 米軍統治下の戦後に首里城の北に存在した「ニシムイ美術村」と、沖縄に派遣されてきた米軍の軍医との交流を題材にした『太陽の棘』という物語。
 離島の南大東島で純沖縄産のラム酒づくり事業をやり遂げる女性の奮闘記『風のマジム』
 両作品とも、沖縄の風土と、沖縄の風と、沖縄人の気質を感じながら、爽やかな読後の気分をいただいた記憶がある。


 今回のこのカフーを待ちわびて 』は、原田マハさんが小説家としてのデビュー作で、2005年に『日本ラブストーリー大賞』を受賞した小説だ。

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 今回は、沖縄の離島に住む主人公・明青が、旅先の北陸の自殺の名所近くの神社で、何の意味もなく戯れに「嫁に来ないか。幸せにします。」という絵馬を書く。
 その絵馬を見て書いたと思われる「あの絵馬に書いてあったあなたの言葉が本当ならば、私をあなたのお嫁さんにしてくださいますか。」という手紙が届き、明青のもとに訪ねて来た女性・幸。
 そんな絵物語のような始まりのラブストーリーだったが、しかし、しかし、その後の展開が、さすが原田マハさんだ。

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 こんなことから始まった2人の一夏の生活。
 主人公の明青の暮らしと、彼を取り巻く島のリゾート開発計画。
 彼を置いて駆け落ちし姿を消した母親、その母への想い。
 突然現れた女性・幸に対して、半信半疑で共に生活しながら徐々に育まれる愛情。
 それを口にも態度にも表せない明青。(それ対して読者の僕はイライラし、やせない気持ちで、ついつい応援したくなり、その展開を追ってしまう。)
 そして、彼女が現れた理由が、島のリゾート開発を反対している明青に対しての開発を進める同級生の友人の陰謀と知る。
 明青は本心を隠して、幼な馴染みと結婚すると偽りの言葉を幸に告げて別れるのだが、彼女が去った後に、それは真相ではなかったことが判明。
 幸が去った後、彼女が残していった幸の宝物。それは、実は小さいときに明青が母親に送ったデイゴの木の小枝のペンダントだった。

 そのペンダントと、去った後に届いた幸からの手紙で、彼女の生い立ちの秘密が分かる。
 そして物語の最後は、明青が、彼女を探しにフェリーに乗って、友人や、彼と生活をしている犬・カフーに見送られながら島を旅立つ。

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 ザッとストーリーをなぞったらこのようなことなのだが、若い2人の揺れ動く心理描写はもとより、彼らを取り巻く人々の心温かくなる人情や、野次馬行動などの描写が、実に繊細で、そしてほのぼのと、その展開にミステリー的な要素十分で、後半はそれが気になって一気読みさせられた。
 さすがは、原田マハさんだと、その筆力に納得のいく、そして読後は、爽やかな、温かい気分をもらった小説だった。

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 ちなみに、この作品が2009年に映画化もされているのでネットで調べてみたら、小説では、主人公の明青が幸を探し、再会して島に戻れたのかどうかは、読者の判断(きっと戻れたのだろうなと思いつつも)に任されている。
 しかし、映画『カフーを待ちわびて』の結末では、主人公の明青が、彼女は必ず絵馬を見つけた神社にいくと予想し北陸に向かい、そこで彼女が明青や島のみんなの幸せを祈るために書いた絵馬を発見。そして、神社では再会できなかったものの、帰りの電車で偶然にも幸に出会うというハッピーエンドの結末になっているらしい。

 

 それはそれで、僕の読後感も、ホッとした気持ちが湧いて温かくなったし、さらに読後の幸せな気分に輪をかけて、この文庫本を本棚に収めることができた。