季刊誌 『 フラタニティ 』 No.7 が届く

 午後3時過ぎに『フラタニティ』編集長の村岡さんが、8月1日発行の7号を届けに、案内所に来てくれた。
 今号は「沖縄特集」だ。なかなか読みごたえのある内容満載だ。
 僕の連載「文学の目」は、今号の特集に合わせて、仲村清司さんの『本音で語る沖縄史』と、原田マハさんの『太陽の棘』を紹介した。
       
 本誌に連載の「文学の目②」に書いた内容を、ここにも転載する。

◆仲村清司著『本音で語る沖縄史』(新潮文庫
先史時代から現在までを網羅
 沖縄についての歴史を、僕は詳しく学んだ記憶がない。僕たちが学校で学ぶ日本史の流れに、沖縄の歴史は含まれていなかったように思う。太平洋戦争末期に本土決戦となった沖縄戦の悲劇や、ひめゆりの塔の話を映画などで知った程度で、それ以前の琉球王朝の成り立ちや、首里文化の実態についてはほとんど知らない。連日、沖縄については基地問題などニュースが流れているにもかかわらず、沖縄の史実についてあまりにも無知なことを反省して本書を読んだ。
 本書は、堅苦しい言葉の羅列もなく、実に読みやすく、先史時代から近代までを網羅し、さらに戦後の米軍統治下の沖縄の実態、復帰後の沖縄の変化などをも著した「沖縄の歴史書」となっている。
 著者も「地理的にみても琉球王国が存続したのは奇跡というほかない。」「日本を中心とした地図では、沖縄は絶海の海に浮かぶ僻地のように見えてしまうだろうが、東アジアを中心とした地図から俯瞰すれば、琉球諸島は日本と中国という超大国の中間にあり、同時に東南アジア諸国とつながる始発点のような場所に位置している。」と書いている。その地理的特殊性がもたらす琉球諸島のその時々の歴史の流れを、沖縄礼賛でもなく、かと言って否定でもなく、冷静な視点で、著者の推測も織り込みながら丁寧になぞっている。
 本書の内容が理解しやすいのは、同時代の日本史ではどのような出来事が発生し、その史実と沖縄史の史実との関連性を詳しく考察しながら書かれているからだ。そんな意味も、沖縄を理解する上では貴重な著書と言えるだろう。
 最後に著者は、普天間基地の移設問題をはじめとする現在の「沖縄問題」が、その解決の方向でなく、袋小路に陥っていることに対して「沖縄の人は何を求めているか、日本本土が実直に理解しないかぎり、この問題は円満解決することはないかと思える。」と述べている。

原田マハ著『太陽の棘』(文春文庫)
米軍医と沖縄の画家たちの交流
 著者の原田マハ自身が『本の話WEB』の〈自著を語る〉の中で「書かなければいけない真実の物語」と書いているように、敗戦後まもない占領下の沖縄で、実際にあったことを題材にした物語だ。
 巻末の「謝辞」で、原田マハは次のように書いている。
 「本作は、サンフランシスコ在住の精神科医、スタンレー・スタインバーク博士との出会いなくしては生まれなかった。本作執筆にあたり、数々の貴重な資料の提供と、また、博士が精神科医として1948年から50年まで沖縄アメリカ陸軍基地に勤務し、ニシムイ美術村の芸術家たちと交流した記憶のすべてを語っていただいたことに、深く感謝申し上げる。」
 画家たちが居住していたニシムイ美術村は首里城近くにあった。軍医として沖縄に駐留し、ニシムイ美術村に出入りしていた若き医師との交流が描かれている。博士は、数多くのニシムイ美術村に住んでいた画家たちの作品を、今も大切に持っている。
 占領下の沖縄で、アメリカ人と沖縄人の、このように美しい交流があったとは驚きである。