江戸時代には、どうしてこんなにも人を引き付ける作品を生む文化が栄えたのだろうか。
その中でも僕は、江戸時代中期に活躍した浮世絵師・東洲斎写楽と、絵師・伊藤若冲に興味がある。
僕は、この2人の作品に触れるたびに「こんな作品を後世に残した作者は、どんな人物だったのだろうか」と、いつも思ってしまう。
先日は、島田荘司著『写楽 閉じた国の幻』を楽しく読ませてもらった。
今回は、緻密な構図や大胆な題材、鮮麗で、奇抜な構図の作品を世に送り出した天才絵師・伊藤若冲の素顔にスポットを当てた澤田瞳子著『若冲』を読んだ。
新聞の新刊紹介でこの本が取り上げられていたのを読んだとき、迷うことなく読んでみたいと思った。
若冲って、どんな人物だったのか。
天才絵師の素顔は、家業を顧みず、絵を描くことに没頭する京都・錦市場の青物問屋「枡源」の主人である。
若冲の絵が評判になって、贋作が出ても「こんな安物顔料を使っていない」と言い切れるほど、高価な顔料を使って鮮やかな色を出すことができたほど、生活金銭的には恵まれた環境で絵を描くことができた。
だからと言って、その彼がどうしてあのような緻密で、大胆な構図で、鮮麗な絵を描き続けたのか。
そんな興味津々な謎を、著者は、若冲の心に深い傷があるからではないかと推理して、若冲を取り巻く人々との人間模様と、若冲自身の葛藤を巧みに描き、人間・若冲の素顔を見事に描き切っている。
江戸時代の文化に興味がある人には、お薦めの一冊だ。
この若冲の素顔は、あくまでも澤田瞳子さんが思いめぐらして推察したものではあるが、どこかの展覧会で彼の作品に接したとき、今までと違った豊かなイメージで鑑賞を楽しむことができるだろう。
僕自身も、それが楽しみになっている。
(これはネットから借用した画像)