文庫・真山仁の『コラプティオ』

 僕は、真山仁という作家の小説を初めて読んだ。
 読書好きの友達から「真山仁は面白いよ。」と勧められたが、その時は、読みたい他の本があって、そのままにしていた。
 先日、新宿の書店に寄ったときに、平積みスペースの一角に「真山仁コーナー」があって、それを思い出して手に取ったのがこの文庫『コラプティオ』だ。
            

 裏表紙の内容紹介を読んだら、無性に読みたくなって買ってしまった。
  ─ 震災後の日本に現れたカリスマ総理・宮藤隼人は、〝禁断の原発政策〟に日本復興を託すが、その矢先、一人の日本人がアフリカで殺される。事件の背景に広がる政権の闇を追いかける新聞記者と、宮藤を支える若き側近は、暗闘の末、最期に何を見るのか。謀略渦巻く政治の世界を白熱の筆致で描く真山文学の真骨頂! ─
 この紹介文を読んで、「イスラム国」による日本人人質事件というか、後藤さん殺害の事と、現政権の動きが何となく結びついてしまったのだ。

 しかし、この小説が書かれたのは4年前だ。
 著者の記述によると「別册文藝春秋」に連載していて、最終回の締め切り3日前に、東日本大震災がおきたのだそうだ。
 それで、連載原稿を大幅に加筆・修正して単行本にしたのが2011年7月で、文庫化されたのが2014年1月。
 そんな時期に、どうしてこれほどの小説が書けたのだろうかと驚いてしまう内容だ。
 もちろん、この小説はフィクションであり、登場人物も架空のものだが、しかし、読みながら、ついつい現在の原発再稼働や集団的自衛権の動き、そして実在の政治家に重なってしまう内容なのである。
 文庫本にしては600ページとボリュームがあるが、あまりにも現在の政治状況を彷彿させる内容と、その中にも「正義とは何か」と問い続ける主人公たちの信念ある行動に、ついつい引き込まれてしまう。
 もっと詳しい内容を要約したいが、今読み終わって、そこまでの気力が湧かないし、ネタバレは、これから読む人に失礼なので書かないことにする。
 しかし、友達が僕に勧めてくれたように、自信を持って「面白いよ」という一言で、お薦めできる小説であることは確かだ。

 ちなみに「コラプティオ」とは、ラテン語で「汚職・腐敗」の意味だという。
 政治とは何か、なぜ権力は腐敗するのか、政治家の姿勢とはどうあるべきか、など等、真山仁は問いながら書いたことが全編を通して読み取れる。