池井戸潤の『下町ロケット』を読む

 この小説は、今年7月に直木賞を受賞した以降、評判の小説だ。書店にも山積みされている。TVドラマ化もされている。
 僕の知人からも「あれは、面白い。一気に読んだ。」というメールが届いていた。
 そんなこともあって、しかし、一方ではあまりにも評判がいいことに対して、アマノジャク的気持が起きるのを押さえて、読んでみようかなと、先週末に書店に行ってみた。
 何と、そこにも「こんな面白い小説を読んだことがあったろうか。云々」という書店員手書きのポップ広告があって、とうとう買ってしまった。

 読み出したら、確かに面白い。ストリーの展開と登場人物の人間模様が、実にリアルに迫ってくる。
 内容は、 
 大田区の町工場が取得した最先端特許(ロケットエンジンの信頼性を左右するバルブシステム)をめぐる中小企業vs大企業の戦いを描いたものだ。
 町工場の社長は、かつて宇宙科学開発機構の研究者でロケットエンジン開発主任。開発したエンジンを搭載したロケットの打ち上げ失敗の責任を取って、町工場2代目社長になる。銀行の下請けいじめ、資金繰り難。大企業の一方的な発注取り消し。大企業の卑劣な特許侵害を盾にしての法廷戦略に巻き込まれたり、大企業の企業戦略に翻弄されながらも、それを乗り越える物語だ。
 何と言っても、読んでいてワクワクしたり、ハラハラするのは「会社は小さくても技術は負けない」というプライドと意地で、翻弄されながらもまとまっていく組織模様。
 そして、夢の実現と、存亡の危機に陥った町工場の現実の間で、何のために仕事があるのか、会社があるのかを問いながら、モノ作りに情熱を燃やし続ける男の姿に感動する。
 それと特記しておきたいのは、単なる大企業vs中小企業の構図で、横暴な大企業(強者)と翻弄する中小企業(弱者)と言うだけでなく、両方の登場人物が実に人間味がある。
 僕などはサラリーマン時代のことを思い出しながら「こんな調子のいい奴がいたよな」的に感じながら読んだり、中小企業に味方する弁護士に正義の味方的快感を感じたり、大企業という組織にいながら、組織と自分のメンツを捨てて「正しいものは正しい」と信念を通して社長の決断を引き出す部長や、技術レベルの高さを認めて上司にとがめられても支援する若き技術者などが読み手である僕を惹き付けたのだ。
 最後は、町工場が納品したエンジン部品を搭載したロケットが、種子島宇宙センターの発射台から無事に宇宙に飛んでいく。

 池井戸潤の書いたものを始めて読んだが、一気に読ませて、その読後感が爽やかなのが、この小説の素晴らしいところだ。
 爽やかな気分に浸りながら、最後のページを閉じることが出来る小説が僕は好きだ。