5月末から昨日までに読んだ3冊の本のおしゃべり

 最近のTV連続ドラマに、ちょっと面白さというか、奥の深さを感じなく、それに時間を費やすことが少なくなり、夜はもっぱら読書の時間となっている。
 先月末から昨日までに読んだ本の紹介。
 
◇その1・早見和真著『アルプス席の母』
 これは、高井戸潤の『俺たちの箱根駅伝』を読んで、その青春物語の感動に惹きづられて、こちらは高校球児たちの物語と思ってメルカリで入手して読んだ。

    

 早見和真さんという作家は、僕は初読みだ。
 高校野球小説だが、なんと球児や監督ではなく、母親の目線からの甲子園を目指す物語。それも母親はシングルマザーの看護師だ。
 甲子園を目指すために神奈川の中学から大阪の新興強豪校に入学。息子は入寮し、母親も寮近くのアパートに引っ越し、大阪という慣れない土地で、レギュラーになって活躍して欲しいと願う球児達の親や、選手起用に絶対的権限のある監督と、その人間関係に翻弄されながら、甲子園を目指して奮闘するストーリー。
 そんな物語で、逞しく育っていく息子、その息子の球児仲間との友情、親たちの奮闘や思惑に、「そうだろうなあ~、こんな事もあるだろうなあ~」と思いながらの、なかなかの感動を得ることができる作品だった。

 出版社の書籍紹介には次の様に記載されている。
──まったく新しい高校野球小説が、開幕する。秋山菜々子は、神奈川で看護師をしながら一人息子の航太郎を育てていた。湘南のシニアリーグで活躍する航太郎には関東一円からスカウトが来ていたが、選び取ったのはとある大阪の新興校だった。声のかからなかった甲子園常連校を倒すことを夢見て。息子とともに、菜々子もまた大阪に拠点を移すことを決意する。不慣れな土地での暮らし、厳しい父母会の掟、激痩せしていく息子。果たしてふたりの夢は叶うのか!?──

 

◇その2・青山美智子著『月の立つ林で』
 この本もメルカリ出品から見つけた本。
 青山美智子という作家の作品も読んだことはない。メルカリ残額も余裕があるし、タイトルも何となく素敵だから購入してみようかと読み出した。

    

 連作短編集だった。前の話の登場人物が自然の流れの中で、次の物語でも関わってくる。
 それぞれの登場人物が、月をテーマにしたタケトリ・オキナという男性のポッドキャスト『ツキない話』の月に関する語りに心を寄せながら、知らず知らずのうちに「人はみんな、顔の見えない誰かに助けられ、誰かを助けている」世界、それを実感する人と人の繋がりが展開する。

 毎日、午前7時に更新される「竹林からお送りしております。タケトリ・オキナです。かぐや姫は元気かな」と始まるポッドキャストで、タケトリ・オキナが語る月についての蘊蓄(うんちく)がいい。
 新月が見えないわけと見えない仕組み、満月にウミガメが孵化する話、太陽と月と地球の距離のバランスで太陽と月が同じ大きさに見えること、などなど、実に興味をそそられる話とともに物語が展開する。
 ちょっと時間が空いたときに読むのに最適な短編集だった。

 

◇その3・河崎秋子著『愚か者の石』
 今年の2月に直木賞を受賞した河崎秋子さんは、北海道の別海町出身の作家だ。
 北海道の東、別海町と言ったらヤマギシの牧場があるところ。なんと河崎秋子さんの生まれ育ったところは隣の牧場だった。
 そんなことで彼女に興味を持って、受賞作『ともぐい』を読んだのだが「これが40代の女性が書いた文章?」と驚くほどの圧巻で、厳しい自然の中で熊も鹿も兎も、そして人間も、同じ〝生きとし生けるもの〟としての命のやり取りが、リアルに描かれて、その世界に惹き込まれてしまった。
 それ以降、立て続けに、『土に贖(あがな)う』『鯨の岬』『肉弾』『締め殺しの樹』『颶風(ぐふう)の王』『鳩護(はともり)』と読んで、2月から4月はだいぶ河崎秋子ワールドにハマってしまった。
 その河崎秋子さんの「直木賞受賞後、第一作!」という新聞書籍広告に目に止まって、早速、書店に。今回は河崎秋子さんへの敬意を払って、メルカリでなく新刊を書店で購入。

    

 この作品は、明治初期の北海道・月形町にあった樺戸集治監が舞台。
 樺戸集治監は、北海道の開拓に囚人たちの労働力を目的に、看守と家族が移り住み、月形村が開村し、囚人たちによって原野を切り開き田畑となり、物資輸送のための道路も作られ、明治時代の北海道開拓の礎を築いたところである。
 歴史小説家の吉村昭は、この樺戸集治監をすでに書いている。赤い柿色の筒袖の着物を着を身につけて、鉄丸・鎖につながれながら、過酷な重労働を課せられた囚人たちを描いた『赤い人』は昭和52年に刊行されている。

 河崎秋子さんが今回刊行した『愚か者の石』も、樺戸集治監に収監された2人の囚人と1人の看守を中心に物語を展開させながら、当時の過酷な労働に耐えながら生きる囚人たちの姿を、骨太の筆力でリアルに描いている。まさに明治時代の北海道開拓史に刻まれた、命の消滅も隣り合わせの日々に生きる囚人たちの生き様を描いた物語なのである。
 出版社の書籍紹介には次の様に記載されている。
──明治18年初夏、瀬戸内巽は国事犯として徒刑13年の判決を受け、北海道の樺戸集治監に収監された。同房の山本大二郎は、女の話や食い物の話など囚人の欲望を膨らませる、夢のような法螺ばかり吹く男だ。翌春、巽は硫黄採掘に従事するため大二郎とともに道東・標茶の釧路集治監へ移送される。二年におよぶ苦役で目を悪くした大二郎は、樺戸に帰還後の明治22年1月末、収監されていた屏禁室の火事とともに姿を消す。山本大二郎は、かつて幼子2人を殺めていた。「大二郎さんよ。そこまで言うなら聞かしてくれよ。あんたが今まで会った女の中で、いっちばん印象に残ってる根性悪な女ってのは誰だい」──

 この作品も『ともぐい』や『締め殺しの樹』同様、河崎秋子ワールドにひきこまれる物語だった。