直木賞受賞作『ともぐい』を読む

 今回の直木賞を受賞した河崎秋子さんという作家を僕は知らなかった。
 プロフィールを見たら、北海道の別海町生まれ。
 別海町と言ったらヤマギシの村・別海実顕地があるところだ。グーグルマップで検索したら近くに河崎牧場というのがある。ここかもしれない。
 さらに、三浦綾子文学賞大藪春彦賞新田次郎文学賞なども受賞している作家ではないか。
 「ともぐい」とは、ちょっとビビるタイトルではあるが、どんな小説を書いているのだろう? これは読まなくては?・・・。
 そんなことで、直木賞受賞作『ともぐい』を読んでみた。

                   

 「これが40代の女性が書いた文章?」と驚く。とにかく圧巻。
 厳しい自然の中で熊も鹿も兎も、そして人間も、同じ〝生きとし生けるもの〟としての命のやり取りが、リアルに描かれて、その世界に惹き込まれてしまった。

 時代は日露戦争が起こる前の明治後期。
 主人公は、道東の山奥でひとり狩りをして、順応な犬と共に生きる男。男の「熊爪」という名前は、アイヌで育ったという養父が、熊の爪で遊んでいたことから付けた名前。
 その養父から獣狩りも獲物の捌き方も、山菜やキノコの採集も、大自然の中で生き抜く知恵や技術のすべてを教わり生きている。
 毎日の暮らしは、過酷で、壮絶な日々。
 熊や鹿など獲物の肉、皮、内臓や、山で採れた山菜などを売り、必要最低限な物を買うときだけ人里に降りていく生活。人との関わり、世間の動向には一切無関心。
 その主人公・熊爪の、熊や鹿などとの生々しい命のやり取りに呆然とする展開の連続。
 獲物を捌く場面では、その湯気が立ち上ぼり血の匂いが漂ってきそうな感じだし、他から来た猟師が熊に襲われ、その怪我人の潰された目の処置、怪我の治療などは、あまりにも生々し過ぎる描写に唖然とする。
 縄張り争いの熊同士の死闘、熊と主人公・熊爪との死闘、とにかく圧巻。
 そして主人公・熊爪の生死観の変化。そして巻末での森で生きた男の命の意外な、いや成るべくしてなった結末。
 東北地方の「マタギ物語」とは違った猟師の生き様に圧倒された。

 著者は、実家の酪農の手伝いをし、羊も飼育しながら、執筆しているらしい。そんな動物相手の日常だからこそ描けるのかもしれないが、それにしても、ここまでリアルに描けるのかと驚きの連続で惹き込まれた次第。

 しばらく、河崎秋子という作家にハマりそう。
 先ほど、書店に寄って新田次郎文学賞短編集文庫『土に贖(あがな)う』を入手。