河﨑秋子著『銀色のステイヤー』を読む

 今回、読んだのは『銀色のステイヤー

     

 今年の2月に直木賞を受賞した河崎秋子さんは、北海道の別海町出身の作家。北海道の東、別海町と言ったらヤマギシの牧場があるところ。
 そんなことで彼女に興味を持って、直木賞受賞作『ともぐい』を読んだのだが「これが40代の女性が書いた文章?」と驚くほどの圧巻で、厳しい自然の中で熊も鹿も兎も、そして人間も、同じ〝生きとし生けるもの〟としての命のやり取りが、リアルに描かれて、その世界に惹き込まれ、立て続けに、『土に贖(あがな)う』『鯨の岬』『肉弾』『締め殺しの樹』『颶風(ぐふう)の王』『鳩護(はともり)』と彼女の作品を読んで、今年の2月から4月はだいぶ河崎秋子ワールドにハマってしまった。

 その後、6月に直木賞受賞後、第一作!」という新聞書籍広告に煽られて、明治初期の北海道・月形町にあった樺戸集治監を舞台にした『愚か者の石』も読んだ。
 この物語は、北海道の開拓に囚人たちの労働力を目的に、看守と家族がともに移り住み、月形村が開村し、囚人たちによって原野を切り開き田畑となり、物資輸送のための道路も作られ、明治時代の北海道開拓の礎を築いた歴史の中の物語だった。

 今回の『銀色のステイヤーは、北海道・日高の競走馬を生産する比較的小規模な牧場が舞台。

 競走馬の活躍よりも、競馬業界で働く多様な職種の人々が、馬と関わる日常で起きる喜怒哀楽にスポットをあて、その役割を丁寧に描いた物語だ。
 幻の三冠馬の血をひく「シルバー・ファーン」という牡馬が産まれてから、その馬の育成に関わる、牧場主、オーナー、騎手、調教助手、牧場従業員のそれぞれの思いや、そこでの葛藤を緻密に、そしてリアルに描き、一頭の馬を取り巻く人々の運命を変えていくストーリー。
 競馬界のことに無知な僕だが、「競馬って、こんな仕組みなのか」と興味を持ちながら、そこで働く人々の生き様にひきこまれる展開に、中盤からは一気読み的読書だった。
 「動物(生きもの)を描かせたら、さすが河崎秋子さん」と思わせる作品である。