川越宗一著『 天地に燦たり 』を読む

 今日の東京は、梅雨の中休み、晴れ間も出て、少々蒸し暑い一日。
 道々で目に付く紫陽花もきれいだ。
 今朝は、こんな紫陽花に出会った。

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       「乙女が紅をさす」という表現が、ふと浮かんだ。


◇川越宗一著『 天地に燦たり 』を読む
 この『 天地に燦(さん)たり 』は、今年の初め直木賞を受賞した『 熱源 』の川越宗一さんのデビュー作だ。
 『 熱源 』を読んでから、せひ、この『 天地に燦たり 』も読んでみたいと思っていたら、6月に文庫化されて書店に並んだ。

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 早速、読む。
 直木賞を受賞した『 熱源 』は、北海道・樺太・ロシアを舞台にした話だったが、この『 天地に燦たり 』は、豊臣秀吉による朝鮮出兵時代に、日本・朝鮮・琉球の東アジア三か国を舞台にした話で、『 熱源 』同様、「生きる・生き続けるとは何か」を問う物語で、この『 天地に燦たり 』では、儒教思想をテーマにしている。

f:id:naozi:20200519211653j:plain 主人公は、朝鮮出兵をする島津藩の武士、朝鮮の被差別民でありながら儒者となった男、そして、琉球密偵として日本や朝鮮を渡り歩く商人の3人。

 この3人を、もう少し詳しく記すと、
 島津藩の武士は、戦いの中で強者が弱者を殺戮する手柄が貴ばれる世の士として生まれ、「自分は禽獣に等しい」と悩みながら戦の日々。
 朝鮮の被差別民として生まれた男は、倭人が攻めてきたどさくさに紛れて、自分の出生を記した帳籍(戸籍簿)を焼き、人間として生きたいがために儒学を学び、被差別民の聖人となろうとしている儒者
 もう一人の琉球の商人(密偵)は、南海の勝地に浮かぶ「守礼之邦」の琉球を誇りに生きる男だ。

f:id:naozi:20200519211653j:plain この3人が、三か国で繰り広げられるの戦の中で交差しながら、儒学の経典が説く「人は、そのままでは禽や獣と変わらない。食み合い、争い合い、奪い合う。礼を尽くして他者を敬愛して、はじめて人は人となる」を追い求める姿を描いている。
 そして儒教では「人は天地と参なる」と説く。
 人が天地の間で尽くした思いや営みは、「天地に燦(さん)たる煌めきを生むのではないか」と。

 そのためには、人間はどうあるべきかと追い求める壮大なテーマの歴史小説なのである。