◇笹本稜平の山岳小説
笹本稜平の書いた山岳小説は、山好きの者にとってはついつい引き込まれてしまうだろう。僕もその一人である。
僕は『春を背負って』を感動して読んでから、笹本稜平の山岳小説なら裏切ることはないだろうと『還るべき場所』や『未踏峰』を読んだ。
◇今回読んだのは『南極風』
最近、通勤電車の中でもいろいろ考えたいことがあって、この小説を一気に読むといった感じではなかったが、500ページのボリュームある文庫『南極風』を、昨日読み終わった。
この小説は、山岳登攀とミステリィの組み合わせ。遭難がきっかけとなった「未必の殺意」の冤罪事件がストーリィだ。
遭難に至る経緯を詳細に描き、一方では起訴される裁判の過程を詳細に描く。
その両方の場面で、主人公の「人としての生きざま」を描いている。
最後は、人間が持っている「希望」や「信頼」や「正義」などが、絶望的な困難をも克服する展開に、ほっと胸を撫で下ろし、爽やかに最後のページを閉じることができる辺りが、今回も笹本稜平の小説らしい小説だと思った。
◇今日買ったのは葉室麟の文庫『月神』
笹本稜平の最新作『分水嶺』を読みたいという気持ちもあったが、同じ作家の小説を続けて読むと、気分転換にならないのと、前作を引きずって比較しがちなので、まるで分野の異なる文庫を買った。
今日買ったのは、葉室麟の歴史小説だ。
葉室麟の時代小説は、直木賞をとった『蜩ノ記』や『秋月記』などを読んでいるので、葉室麟も決して読者を裏切らないことを僕は知っている。
帯には「幕末の福岡藩で、尊攘派として志士を導いた男、月形蔵。維新後の北海道で、集治鑑(監獄)を創った、従兄弟の月形潔。時代の陰で、日本の曙光のために命を燃やし続けた男たちを描く傑作歴史小説。」と書かれている。
黒田藩の尊王攘夷の志士のことを、僕は知らない。
九州から遠く離れた北海道で、その志士に繋がりある男が、命がけで監獄を創った話も、僕は知らない。
「おもしろそう」と思って買った。