千早茜著『 しろがねの葉 』を読む

 最近、思うところがあって、國分功一郎の『暇と退屈の倫理学』と『目的への抵抗』を再読しているのだが、ちょっと息抜きに物語が読みたくなって読んだのが、この千早茜さんの2022年下半期・第168回直木賞を受賞した『しろがねの葉』

                

 この物語は、2007年に世界遺産に登録された石見銀山を舞台にした物語である。 以前に同じ「石見銀山」を舞台にした澤田瞳子さんの『輝山(きざん)』を読んだ。


 その「石見銀山」についてWikipediaには次の様に記されている。
──石見銀山(いわみぎんざん)は、島根県大田市にある、戦国時代後期から江戸時代前期にかけて最盛期を迎えた日本最大の銀山(現在は閉山)。上述の最盛期に日本は世界の銀の約3分の1を産出したとも推定されるが、当銀山産出の銀がそのかなりの部分を占めたとされる。──

 澤田瞳子さんの『輝山』にも、命の危険にさらされながら間歩(まぶ・坑道)の中で鉱石を採掘する掘子など、そこで働く者たちの過酷な労働が描かれていた。
 間歩の中で働く鉱山夫たちは、毒気(ガス)や湿気、灯りとして使う螺灯(らとう)の油煙、粉塵などが原因で「気絶(きだえ)」を発病して40歳まで生きられる男は皆無と言われている。
 この『しろがねの葉』でも、鉱山夫たちは若くして次々とじん肺に倒れ、女たちは彼らを看取り生涯に3人の夫を持つという状況と、それを知りながら、その短い生涯をここに生まれた男の運命として、鉱山夫として仲間たちと懸命に生き銀山を支えている。そんな者たちの当時の過酷な日々の暮らしを描いている。

 主人公は石見銀山で強く生きたウメという女性。
 親とはぐれたウメが銀の在処を探り当てる「山師」の喜兵衛と出会う。
 喜兵衛に育てられ、喜兵衛から鉱脈を教えられたり、共に山歩きをする中でウメは男たちがやっている間歩での銀掘になりたいと傾倒してゆく。
 しかし、女は間歩にも入れなければ銀掘になれないという事実。
 その悔しさを抱きつつ、結局は銀掘の隼人に嫁ぐ。
 夫になった隼人も、病に侵され病と闘いながらも間歩に入る事を止めない男。
 そんな命短い男との子を育て、その子も成長すればまた間歩に入るという宿命。銀山ではそれにあがらうこともなく生きる。
 そんな銀掘たちの命を奪う銀山。ウメはそれに複雑な思いを募らせながらも、ウメはある意味でしたたかに強靱に生きる。
 当時の「石見銀山」の実態を知ることができる、読み応えのある一人の女の物語だった。