直木賞となった一冊が今村翔吾さんの『 塞王の楯 』だった。
実は、前にもブログに書いたが、僕が現在、読んでいる本だった。
会の機関紙「けんさん」の編集が終わって、気分転換に何か面白い本でも読んでみたいと選んだのが、この本だった。
同時に直木賞を受賞している米澤穂信さんの『 黒牢城 』も、面白そうと思って手にしたが、──近江の国・大津城を舞台に、石垣職人“穴太衆”と鉄砲職人“国友衆”の宿命の対決を描く、究極のエンターテインメント戦国小説。──という書籍説明を見て、こちらを先に読もうと『 塞王の楯 』を読み出した。
この『 塞王の楯 』は552ページという長編時代小説。
昨夜、ニュースで直木賞受賞を知ったときには、まだ2章を残す終盤の、まさにクライマックスの攻防展開の真っ只中。
そして今日、一気に読み終わった次第。
今村翔吾さんの作品は初めて読んだが、実の面白く、最初から最後まで興味津々、ことの展開に引き込まれ、いつも観ている夜の報道番組もそっちのけで、夜遅くまで読書に費やしてしまった。
物語の舞台は、関ケ原の戦いの前哨戦となった「大津城の戦い」がメイン。
石垣施工の技能集団・穴太衆の若きリーダーとなった匡介(きょうすけ)と、鉄砲職人集団・国友衆の天才技能者の彦九郎(げんくろう)との攻防。
匡介は「絶対に破られない石垣」を作れば、世から戦を無くせると考えていた。
一方、鉄砲職人の彦九郎は「どんな城も落とす火器(鉄砲や大筒)」で、その恐怖を天下に知らしめれば、戦をする者はいなくなると考える。
共に2人とも、思いは同じ「民を苦しめる戦がない泰平の世」。それを目指した職人の対決なのだ。
この戦国時代の「何者にも破れない石垣を組む職人と、闘うことを諦めるほどの破壊力を持つ火器を作る職人」の攻防は、まさに戦国の世の「盾」と「矛」の攻防。
それは互いの技を極める「矛盾」の対立でありながら、現在に通じる核武装の是非のテーマでもあり、「なぜ、戦争はなくならないか」「どうしたら人間は戦争を放棄するのか」を考えさせるテーマを内蔵した物語だった。
朝日新聞朝刊の「ひと」欄に、著者の今村翔吾さんが紹介されていた。
昨夜のTVインタビューでも語っていたが、家族が経営するダンススクールの講師をしていた当時、作家になろうと目指していたが、一向に筆が進まないまま30歳を過ぎたある日。教え子に「やりたいことを諦めるな」と言ったら「翔吾君だって、夢あきらめてるやろ」と言い返されて、再び小説の執筆に奮起。TVニュースでは受賞の知らせの電話を受けながら涙ぐんでいたのは、その時、子供たちの顔が浮かんだためだと言っていた。