西條奈加著『 心淋し川 』を読む

 西條奈加さんの作品は初めて読む。
 出掛けたついでにBOOKOFFの店頭を覗いていたら、目に止まったのが昨年に直木賞を受賞した『 心淋し川 』だった。

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 この直木賞受賞作のタイトル「心淋し川」と書き、「うらさびしがわ」と読む。
 「うらさみしがわ」のある江戸の下町・千駄木町の外れにある、古びた貧乏長屋が集まる場所だから「心町」と書き「うらまち」と呼ばれる。
 そこを舞台にした6編の時代小説。
 『 心淋し川 』『 闇仏 』『 はじめましょ 』『 冬虫夏草 』『 明けぬ里 』『 灰の男 』の連作短編集だった。

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 冒頭の短編が『 心淋し川 』で、そこで「その川は止まったまま、流れることがない。たぶん溜め込んだ塵芥(ちりあくた)が、重過ぎるためだ。」と描くように、6編の物語は、訳ありな、その日その日をやっと過ごすような庶民が、そこに流れ着き留まりながら生きる物語なのだ。
 その短編6編の物語は、無関係ではなく全編通して、過去を胸に秘めながら日々の生活のなかで喜んだり、悲しんだり、苦悩したりしながら、「心町」(うらまち)に住む人間模様が描かれていて、どんな過去を持っていても、人生を諦めずに日々を生きるいじらしさと、人の心に潜むやるせない「人間の業」にスポットを当てた作品なのだ。
 特に僕は、『 闇仏 』と『 はじめましょ 』がよかった。

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