直木賞を受賞した米澤穂信著『 黒牢城 』を読む

 僕はまだ、米澤穂信さんの本は読んだことがない。
 今回の直木賞の受賞で知った作家だ。どんなことを書く作家なのだろうかと、受賞作『 黒牢城 』を読んでみた。

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  この物語、時は本能寺で織田信長石田三成の謀反によって没する3年ほど前、場所は兵庫県伊丹市(当時は摂津国)にある荒木村重が籠城し織田信長軍と戦った「有岡城」が舞台である。
 歴史小説の面白さは、史実に基づきながら、そこに登場する人物をいかに生き生きと、作家のイマジネーションで蘇らせるかにあると僕は思っている。
 この物語でのその人物は、織田信長に反旗を翻した有岡城主の荒木村重と、村重によって有岡城の地下土牢に幽閉された黒田官兵衛だった。

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 史実をウィキペディアに記載されている内容から抜粋すると・・・。
 天正6(1578)年10月、三木合戦で羽柴秀吉軍に加わっていた荒木村重は、有岡城伊丹城)にて突如、信長に対して反旗を翻した。羽柴秀吉は村重と旧知の仲でもある小寺孝隆(のちの黒田官兵衛)を使者として、有岡城に派遣し翻意を促したが、村重は聞き入れず孝高を拘束し土牢に監禁。 
 以後、村重は有岡城に篭城し、織田軍に対して1年の間、徹底抗戦。
 側近の高山右近らが信長方に寝返ったために戦況は圧倒的に不利となり、さらに期待の毛利氏の援軍も現れず窮地に陥ることとなり、天正7(1579)年)9月、単身で有岡城を脱出し、嫡男・村次の居城である尼崎城へ移ってしまった。

 このような史実をベースに、織田に反旗を翻した荒木村重とは、いかなる武将であったか、知略に優れた黒田官兵衛が土牢に幽閉され、村重とどう対峙したかが、本小説の描きどころ。
  著者の米澤穂信さんは、籠城戦のなかで起こった4つの出来事(事件)の謎解きを短編小説的に4章構成し、それぞれの章ごとに、土牢に幽閉した官兵衛に問いかけ、推理し、ヒントを得て乗り切るのだが、最後の最後に明らかになるのは、それら官兵衛からの助言はすべて、官兵衛の村重を陥れるための知略そのものであったというミステリ。
 籠城している総大将の村重の微細な心情の揺れ、葛藤、武将としての矜持を描くことで、実に見事に人間・村重を登場させているし、なぜ信長に謀反したか、なぜ籠城の果てに単独脱出したか等々、著者によるフィクションであると思いながらも、説得力ある展開に納得してしまう面白さある作品となっている。

 この歴史小説、面白さにおいては、直木賞作品として僕を裏切らなかった。