原田マハ著『 リーチ先生 』を読む

 僕の読書時間は主に通勤電車の車内である。

 そんなことで、前々から読みたいと思っていて、車内で便利な文庫本化されるのを待っていた原田マハさんの『リーチ先生』、先月末に文庫化されたので、早速読んだ。

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 この物語は、イギリス人の陶芸家である実在の人物・バーナード・リーチを題材にしたものだ。
 バーナード・リーチは、香港生まれで、生後まもなく母を亡くしたため、幼少期の4年間を日本の祖父母のもとで過ごし、10歳でイギリスに帰国。
 21歳の時にロンドンの美術学校で学び、渡英中の彫刻家の高村光太郎と知り合う。その縁で1909(明治42)年に来日。東京上野でエッチング教室を開き、やがて柳宗悦や「白樺」同人達と交流。
 その後、富本憲吉とともに陶芸の道を歩み、六代尾形乾山に入門。1917(大正6)年、千葉県我孫子柳宗悦邸内に窯を築き陶芸を追求し、そこで濱田庄司と出会う。
 1920(大正9)年、濱田庄司を同行してイギリスに帰国。イギリス西南部のコーンウォール州のセント・アイヴスにヨーロッパ最初の登り窯を築き、陶芸を究めながら、度々日本にも訪れ、日本の民芸関係の作家達と親交深め続けて、日英の芸術交流に努めた人物である。

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 そのバーナード・リーチを、日英の架け橋となるという高尚な志を持った魅力的な陶芸家として描いているし、彼と親交を深めていた高村光太郎柳宗悦、陶芸家として人間国宝にもなった濱田庄司、富本憲吉や、河井寛次郎などの著名な実在の人物を、物語に登場させて、バーナード・リーチの生涯を生き生きと描いている。

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 その描き方が、さすが原田マハさんと脱帽する方法である。
 バーナード・リーチを始めとした上に記した人物は実在の人物であり、その交流の中で繰り広げられる民芸運動や陶芸の歴史は、史実に添いながら描いているのだが、そのために沖亀乃介、沖高市というフィクションの親子を登場させ、バーナード・リーチ原田マハさんの豊かなイマジネーションと巧みな筆力で鮮やかに語らせているのだ。
 これは、先日読んだ松方幸次郎と松方コレクションを題材にした『美しき愚かものたちのタブロー』と同じである。『美しき愚かものたちのタブロー』では、実在のモデルはいるとしても、やはり史実には実存しない美術史家の田代雄一という人物を登場させフィクション化し、感動の物語に仕上げている。

 これがまた、原田マハさんの小説の魅力でもあり、僕は毎回、最後の数ページで目頭を熱くさせられるのだが・・・。


 今回も、爽やかな感動をいただいてページを閉じた。