安部龍太郎著 『 維新の肖像 』 を読む

 今年2018年は、明治維新150年の年である。
 我々が学び、認識してきた「明治維新」の近代化への革命に対して、その功罪を見直そうとする書籍も何冊かある。
 この書籍も、その一冊である。
 戊辰戦争では、賊軍となった藩である福島県生まれの僕としては、興味津々の内容でもある。
       
 本書の最後に載っている澤田瞳子さん(作家)の「解説」では、この物語の大きな意図している点について、次の様に書いている。
──『維新の肖像』は日本が軍国主義化への道をたどる一九三二年、歴史学者である朝河貫一が父・朝河正澄の経験した明治維新を小説として執筆するという、歴時小説には珍しい二重構造となっている。だが、精緻な織物のように過去と現在が絡み合う本作には、もう一点、既存の歴史小説と大きく異なる点がある。それは戊辰戦争を生き抜いた二本松藩士たる父と、母国の軍事化を憂う息子という二人の視点を通して、「維新」とは何かとの問いが、我々に突きつけられていることだ。
(中略)
 つまり安部氏はここで、反日本の気風が吹き荒れるアメリカで孤独に戦い続ける貫一の目を通じ、日本人が知らず知らずのうちに信じ込んでいる「維新史観」の再検討を我々に迫っているのである。──
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 このような意味では、一読に値する物語だった。
 もう少し触れるならば、
 戊辰戦争のきっかけになった、薩摩藩江戸藩邸庄内藩新徴組らによって襲撃され、焼失した事件の「江戸薩摩藩邸の焼討事件」は、西郷隆盛が幕府を挑発して戦争を起こすための口実をつくるために、江戸市中にテロ組織「薩摩御用盗」を送り込んだという説。
 それらの行為を公になることを恐れた背景があって、江戸城無血開城に繋がったという説。
 薩長同盟の立役者といわれる坂本龍馬は、幕府とフランスの深まる関係に対抗するイギリスの戦略であり、坂本は在日イギリス人商社・グラバー商会に頼まれて、イギリスの指示を伝えたに過ぎないという説。
 幕末の激動期に即位し、公武合体を進めていた孝明天皇が35歳で亡くなったのは、長州の陰謀(毒殺)だとする説。
 さらに、それが明らかになることを恐れて、孝明天皇の信頼が特に厚かった会津藩主・松平容保を抹殺したいがために、長州は執拗に会津藩攻撃にこだわったという説。
 などなど、薩長を主体とする明治政府が、隠さなければならない明治維新の背景が、本書でも取り上げられている。
 そのような、どんな手を使っても勝てばいいという薩長勢のやり口が、近代化する中で軍国主義思想となり、日露戦争日清戦争、さらには太平洋戦争まで尾を引く根本原因だとしている。