高田郁の 『 あきない世傳 金と銀(四) 貫流篇 』

 先週半ば、書店を覗いたら、高田郁さんの『あきない世傳 金と銀(四) 』が、新刊文庫本として平積みされていた。
 『あきない世傳 金と銀 』の(一)〜(三)は、出たときに読んでいて、続編を楽しみにしていたので、「やっと出たか!」って感じで、早速、購入する。
         
 半年ぶりの高田郁の世界。
 通勤電車の中で、少しづつ読むつもりが、読み始めたら止まらない。時間を見つけて結局最後まで一気読みって感じ。
 それにしても、高田郁さんの表現力というか筆力はすごい。惚れ惚れしながら物語の展開に引きずられる。

 たとえば、第一章はこんな始まりだ。
「一陣の風が、天満菅原町内の名残りの萩を絡(から)め取り、地面に零(こぼ)して去った。路に散らばる柴紅の花弁は束の間、晩秋の風情を留めたものの、商家の奉公人たちの手で丁寧に掃き清められた。」
 第三章では、こう始まる。
「早いもので、惣次が店を飛び出して丁度、ひと月が過ぎた。黄に紅に茶に樺色(かばいろ)、と錦の衣装を身に纏(まと)っていた樹々(きぎ)は丸裸になり、通りを行く人々の息も白く凍る。」
 そして、第十一章では。
「朝夕、草花や樹々の葉が白く丸い露を抱くようになり、天満の空を自在に飛んでいた燕たちも、徐々に旅立ち始めた。良い季節になった、と幸はほっとする。」

 物語の展開も面白い。
 天満呉服商の「五鈴屋」の女中奉公から、商才の片鱗を認められ、四代目徳兵衛の妻となった主人公の幸だったが、四代目が不慮の事故で亡くなり、弟の惣次に嫁して五代目徳兵衛の妻になったものの、その惣次も出奔してしまう。
 そして、今回の「貫流篇」では、お店の暖簾を守るためと懇願され、末弟の智蔵・六代目徳兵衛の妻となり、ますます商才を発揮するのだ。
 だれも思いつかないような、新しい商い方法を編み出しては、周りを巻き込んで成果を上げる。
 詳しく書くとネタバレで、これから読む人の邪魔になるので控えるが、とにかく面白い。
 またまた、続編が待ち遠しくなる高田郁のシリーズ作品だ。