高橋克彦著『ジャーニー・ボーイ』を読む

 この『ジャーニー・ボーイ』は、通勤電車の中で読むものがカバンに入っていないと思って、高田馬場駅前の書店で見つけた新刊文庫本だった。
 このタイトルに、何となく目がいって手にしたら、なかなか面白そうと思って買った。
        
 これは実在する人物をもとに書かれた物語である。
 明治維新から10年ほどしか経っていない日本に、英国人女性探検家が来て、東京を出発して、日光を経由し新潟へ出て、日本海側を通って北海道に行き、船で東京帰還し、再び船で神戸に向かい、京都、奈良を経て伊勢神宮まで旅をした。
 彼女のその旅行記が、『日本奥地紀行』である。
 その女性の名は「イザベラ・バード」。
 彼女は、19世紀のレディ・トラベラー(女性探検家)として、もっとも有名だった人。
 徳川幕府を倒し、薩長中心でつくられた政府に不満がくすぶり、大久保利通は不平士族に暗殺される、そんな時代。
 そんな世相の時の彼女の旅に、何か事があっては国の威信に関わるし、名のある探検家による日本紹介のいいチャンスだと、外務省は通訳兼護衛役に、英語が堪能で腕も立つ「伊藤鶴吉」という青年を付ける。
 その2人の旅の「東京から新潟まで」の行程の物語である。
 日光までは、江戸時代から街道が整備されていたが、そこから新潟までは、道と言われても難所続きの山道。あえて彼女は、そんな辺鄙な地にこそ、日本の真実があると選び踏み入る。
 そんな2人の旅を、政府の権威を失墜させようとする者たちが阻止を企て、執拗に迫る。
 政府も、伊藤鶴吉だけでなく、陰ながら護衛する腕の立つ人物を送り込んでいる。
 その両者の駆け引きと戦いは、イザベラ・バードに知られないようにしながら展開するのだ。
 それが、実に面白い。まるで歴史サスペンス小説だ。
 さらに、実話をもとに、その隙間、隙間に、著者のフィクションを織り込み、困難を知恵と勇気で乗り越える冒険小説ともなっているのだ。
 それにしても、「イザベラ・バード」という、こんな女性探検家が、明治初期に日本を訪れ、それを護衛した「伊藤鶴吉」という人物がいたことを、僕はあまり知らなかった。

 ネットで検索したイザベラ・バード女史と、晩年の伊藤鶴吉。