少し前に読んだ文庫のおしゃべり

 今日も空気が冷たい、寒い一日だった。
 先日の初夏のような気温は、いったい何だったのだろうかと思ってしまう。
 今晩は、ちょっと時間があるので、少し前に読んだ文庫本のことを書いてみようと思う。


◇出張前に、電車の中で気楽に読める小説がないかと思って書店に寄った。
 その書店の文庫コーナーに、平積みされていた新刊文庫・木皿泉著『昨夜のカレー、明日のパン』。
 先ず目にとまったのは、店員が書いたポップだった。
        
 2014年の本屋大賞第2位の本なら読んでもいいかな?
 ところで、著者の「木皿泉」って、なんて読むのかな、「きさらせん」かな?
 題名の「昨夜のカレー、明日のパン」って、料理の本でもなさそうだし・・?
 そんなことを思って、カバー表紙裏の著者紹介を見たら、なんと「木皿泉(きざら・いずみ)」は、脚本家・和泉務(いずみつとむ)と妻鹿年季子(めがときこ)夫妻の共作ペンネームであると書かれていた。
 そんな著者にちょっと興味もあったし、値段も600円だし、これから出かける2時間の車中で、気楽に読むにはちょうどいいと思って買った。
       
 最初は、平凡な話で、どうして「本屋大賞第2位の感動作!」なのか、と思いながらページをめくっていたのだが、そのうちに引き込まれて、結局は、ちょっと不思議な、爽やかな読後感動。


 物語は、7年前に夫を亡くした嫁・テツコと、一緒に暮らし続ける夫の父・ギフの2人が、若くして死んだ夫と、息子の死を、日常の暮らしの中で、2人を取り巻く人々とともに、少しずつ受け入れていくという内容だ。
 登場人物がみんな、どこか不器用で、それでいて心根が優しい。それを実に巧みに書いている。
 巻末の「解説」では、作家・重松清さんは「発見と解放の物語」と書いている。
 確かに、誰もが日常の中で持ってしまっている「しがらみ」というか「こだわり」からの解放と、ちょっとしたキッカケで「これからの生きる力」の発見を、物語全般にちりばめ描いた物語なのだ。


 あとでネットで調べて知ったのだが、脚本家「木皿泉(きざら・いずみ)」の、和泉は脳出血で倒れ重度の後遺症があり、妻鹿はうつ病を治療しながら執筆した、2人の最初の小説なのだという。
 さらに、ウィキペディアによれば、「共同で脚本を書くスタイルは独特で、まずは二人で登場人物その他の設定を考え、後は妻鹿がほぼ一人で執筆していく。そして妻鹿が行き詰ると和泉が膨大な知識や経験を元にアイデアを捻り出し場面を展開していく、というもの。」とある。
 さすが、脚本家の書いた小説だけあって、見る目的もなくTVチャンネルを変えていて、何の気なしに出会ったドラマを、ついつい最後まで観てしまって、ふわふわちと軽く、それで清々しい感じの、不思議な感動を得た時のような、そんな読後だった。