実に刺激的な本を読んだ

 先日、三重県ヤマギシの村のナガセさんから「ちょっと面白い本を読みました。」とラインメールで、この本を紹介してもらった。
 『データの見えざる手 ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則』
         
 著者の矢野和男氏は、日立製作所の研究開発グループの技師長なのである。
 ビックデータの統計学的解析を基にしているので、最初のうちは難しそうと思って読んでいたが、読み進めるうちに引き込まれて、実に刺激的な内容の本だった。

 著者の矢野和夫氏は実験のため2006年から自らリストバンド型のウェアラブルセンサ機器を取り付けて24時間365日8年間データを取り続けた。
 著者自身を含め、これまでのべ100万人日以上の行動を計測、その身体活動、位置情報、センサを付けている人どうしの面会などを記録した「ヒューマンビッグデータ」を基に、人間や社会に普遍的に見られる「法則」や「方程式」を、次々と明らかにしているのである。
 つまり自然現象の科学的な理解の方程式が、人それぞれ、性格,思い、生まれ育った文化の違いなどで、異なるだろうと考えていた人間にも当てはまる事実を示している。
 それによって、一人一人の時間の使い方、幸福感、組織での行動や経済活動など、人間と社会に関する今までの認識を、根底からくつがえすような、知的好奇心を刺激する内容なのだ。

 興味を持って読んだ中から一つだけ「幸せ」について紹介すると、一卵性双生児のデータベースの蓄積から、「幸せ」の法則を明らかにしている。
 同じ家庭で育った一卵性双生児と、違う家庭で育った一卵性双生児のビックデータと、その解析と研究の結果、「幸せは、およそ半分は遺伝的に決まっていることが明らかになった。うまれつき幸せになりやすい人と、なりにくい人がいる」ことが分かった。
 そして、遺伝的に影響を受けない残り半分は後天的な影響であるのだが、それをさらに分析すると、人間関係・お金・健康などの環境要因をすべて合わせても、「幸せに対する影響は、全体の10%にすぎない。」というのだ。
 「それでは、残りの40%は何だろう。それは、日々の行動のちょっとした習慣や行動の選択の仕方によるというのだ。特に、自分から積極的に行動を起こしたかどうかが重要なのだ。自ら意図を持って何かを行うことで、人は幸福感を得る。」と論じている。
 それは「行動を起こした結果、成功したかが重要なのではない。行動を起すこと自体が、人の幸せなのである。」という。
 そして、幸せを感じていることは、身体運動加速度センサで測ることが出来て、その身体運動は周りの人たちにも伝染することが解明されたというのだ。

 そのほか、人の「運」についての解明も実に興味深く刺激的内容だ。
 「運も実力のうち」と言われていたが、実は「運こそ実力そのもの」と論じて、「運」はどのように、どのような場合に訪れるのかを統計学的分析をしている。
 そして最後の章で、ビックデータと人工知能を携えたコンピュータ、その科学技術の進歩が、幅広い社会イノベーションに波及効果をもたらし、「多様な国家や個人に貢献の機会を高め、世界の発展を促すのではないだろうか。」と結んでいる。

 ここに書いたのはほんの一部である。
 確かに、ナガセさんが僕に勧めてくれたように、一読をお勧めしたくなる一冊だ。