映画『蜩ノ記』についてのおしゃべり

 今夜は、外は台風19号だ。雨や風も強くなっている。
 案内所の今日の月曜日定例の研鑽会も午前中で終わって、みんな早めに帰宅した。
 夕方になって、雨脚が強くなった。
 そんな中を、明日朝の出勤を心配しなが我が家・多摩実顕地まで帰るのが億劫になって、僕は「まあ、今夜はゆっくりと本でも読もうか」と、ちょっと言い訳気持ちを抱きながら、案内所に宿泊することにした。
 夕食は、僕のお気に入りの定食屋「大戸屋」で「釧路沖生さんま炭火焼きW定食」を食べた。満足・満足…。
          

 そんなことで、今夜は時間もあるので、先週末、帰宅途中に観た映画『蜩ノ記について書いてみようと思う。


◇この映画の原作は、直木賞を受賞した葉室麟の『蜩ノ記』である。
            
 僕は2年前の1月に、この小説を読んで、すっかり葉室麟の時代小説が好きになった。
 そのときの感想を僕はブログに、
 「藤沢周平の小説『蝉しぐれ』を思い出したが、とにかく、場面場面の状況も、登場人物の動作や心の動きも丁寧に描写して、友とは何か、親の子に対する思いとは何か、家族の愛情などを考えさせられる小説だった。」と書いた。
 そして、きっと映画化されるだろうと期待して待っていた。


◇2年後の今年、その映画化のメガホンを握るのは、黒沢監督の弟子と言われる小泉堯史監督だと知って、僕はますます期待が膨らんだ。
 小泉堯史監督と言ったら、僕は『阿弥陀堂だより』が忘れられない。
 奥信濃の四季折々の風景を、これほどまでに美しく感動的に映し出した映像に出会ったことがあったかと…。雪が降る奥信濃、紅葉に彩られた奥信濃、そんな感動した映像を今でも記憶にある。
 そんな期待いっぱいで観た映画『蜩ノ記
          
 主演の役所広司はさすが存在感ある演技だったし、共演の岡田准一大河ドラマ軍師官兵衛とはまた違った味を出していたし、刀さばきも迫力があり、原田美枝子の武士の妻を演じる姿にも心打たれたし、堀北真希も武士の娘を好演。それぞれの味ある演技がなかなかよかった。


◇物語は、
 藩主の側室に、世継ぎをめぐる政争から危害がおよび、それを助け出すために、一夜を刺客から警護したことが不義密通とされて、その罪をかぶせられ、「10年後の切腹と、その間に家譜編纂」を命じられた武士・秋谷(役所広司)。
 その秋谷は、命じられた家譜編纂に打ち込みながら、切腹までの残り時間を武士として清廉に生きる。
 そして、秋谷の監視を目的に、生活を共にして家譜編纂を手伝うことを命じられながら、秋谷の生き方に触れて心を通わし慕う青年武士・庄三郎(岡田准一)。
 不義密通など決して夫はしていないと信じて秋谷を支える妻(原田美枝子)と、娘(堀北真希)。
 さらに、父の生き方を見ながら育つ息子・郁太郎。
 その郁太郎の友人で百姓のせがれ・源吉の、拷問で死ぬ間際までも持ち続ける家族への思いやり。
 それぞれが、男として、女として生きる姿を、これでもか、これでもかという程に丁寧に描いている。
 最後は、藩を守るために自ら負った無実の罪であり、家譜編纂を成し終えた功績で、切腹を免れることもできるが、延命の道を選ばず、武士の矜持を貫き通して、切腹を前に、娘と庄三郎の祝言と、息子の元服をすませて死を迎える秋谷だ。
 ラストの、妻が仕立てた死への旅たち衣装で、家族に見送られながら、凜として歩む秋谷の姿。ついつい、目頭が熱くなった。
           
 原作には、映画よりもきめ細かな心情描写が編み出す感動もあるが、しかし、この映画『蜩ノ記』も、期待通りの小泉堯史監督ならではの映像が、随所にちりばめられ、感動の余韻が残る日本映画だと思った。