映画 『 春を背負って 』 を観る

 今日の日曜日、朝8時頃までは、10時キックオフのワールドカップ「日本 VS コートジボワール」を観ようと思っていたのだが、妻が、昨日公開された映画 『 春を背負って 』 を、朝一番の上映時間で観たいと言い出した。
 この映画の原作は、笹本稜平の同名小説だ。
            
 僕は小説 『 春を背負って 』 は、4月に読んで感銘を受け、その時、映画化され6月公開だということを知って、楽しみにしていた映画だ。
 迷った末に、選んだのは妻との映画鑑賞。
 8時半過ぎに、小田急線・新百合ヶ丘駅近くのイオンシネマに出かける。
            
 ストーリーは、原作とはだいぶ異なる脚本だったが、それがかえって映画化としての完成度を高めたと思われる内容の映画だった。
 なんと言っても、ロケ地に選んだ立山連峰の圧倒的な自然の美しさを、思う存分に堪能できる作品だ。
 さすがカメラマンとしても有名な木村大作監督が、原作の舞台である奥秩父を、映像化にあたって3000mの北アルプスを選んだだけのことはある映画になっている。
 僕は、その自然の圧倒されるほどの美しい映像の中で織りなす人間模様に感動しながら、これほどまでに四季折々の自然の美しい映像は、かなり以前に観た奥信濃の自然の美しさを舞台とした映画『阿弥陀堂だより』以来だとさえ思えた。
            

 物語は、東京の金融の世界で、会社の歯車として毎日を過ごしていた青年が、山小屋を経営していた父親の突然の死で、その山小屋を引き継ぎ、山の厳しさと、そして豊かな自然と、そこを自分の居場所だと山を愛する仲間や、麓で温かく見守る人々に助けられながら、一人前の山小屋の主人に成長していくという内容だ。
            
 主人公の松山ケンイチの演技もいいし、僕が好きな女優であるヒロイン役を演じる蒼井優の演技が清々しい。
 そして、この2人を超える存在感を出しているのが、父親の友人で、山小屋主として未熟な主人公を助ける風来坊山男役を演じる豊川悦司だ。
 その他にもいい持ち味発揮の俳優が大勢出ている。壇ふみ小林薫、登山家としても知られる市毛良枝。僕は名前を知らなかったが、主人公の幼馴染の友人役の新井浩文がいい味を出していた。書き出したらきりがない。
 遭難事故一歩手前での救出や、豊川悦司演じる風来坊山男の脳梗塞などという事件はあるものの、山小屋を運営している日々と、「人は誰も荷物を背負って生きている」と台詞にあるように、過去を背負った人達の人間模様を淡々と描いている。

 「一歩一歩、自分の力で普通に歩けばいい」という言葉。
 それは、幼い主人公を山に連れてきた父親が、息子に雪を踏みしめながら言う台詞であって、その父親の親友・風来坊山男が、主人公が初めて荷揚げする危なっかしい姿に対して、励ます言葉なのだが、その言葉が、観終れば、移り変わる厳しい自然と同じように、それぞれが乗り越えなければならない「背負ったもの」への人生の言葉として、登場人物一人一人の笑顔とともに印象に残る。
 北アルプスの自然美を堪能したい人、清々しい観賞感を味わいたい人には、お薦めの映画だ。