映画『100万回生きたねこ』を観る

 現在、渋谷で『100万回生きたねこ』というドキュメンタリー映画を上映している。
 この映画は、監督は小谷忠典だが、プロデューサー/構成に、知人の大澤一生君が関わった作品だ。
 大澤君から11月に試写会の招待券を送られてきていたが、日程的に都合が付かず観ることができなかったので、今回、公開劇場での鑑賞となった。
                
 題名でも分かるように、絵本作家・佐野洋子さんの有名な絵本をテーマにしたドキュメンタリー映画だ。
 この絵本のことにちょっと触れると、
 物語は、100万回生まれて死んだ〝ねこ〟の話で、王様のねこになったり、漁師のねこ、女の子のねこ、おばあさんのねこ、サーカスのねこ、などなど、いろいろ生まれかわり、愛されるが、そのたびに飼い主を嫌っている。ねこが死ぬと必ず飼い主は泣いてくれるのに、ねこは泣いたことがない。
 しかし、ある時、〝のらねこ〟になり、白い美しいねこに恋をする。関心をしめさない白ねこの前で、宙返りをしたり、いろいろ工夫した末にやっと一緒に住むことが叶って、こどもが生まれ、ねこは自分以外を好きになる。
 そして、白ねこが死ぬ。愛する白ねこを失って大泣きに泣く。はじめて泣く。100万回も泣く。そしてねこも死ぬ。100万回生きたねこは、もう2度と生まれ変わることはなかった。
                 
 このような絵本『100万回生きたねこ』を描いた佐野洋子さんは、ガンを患って余命を宣告されていた。
 その佐野さんを「姿を映さない」という条件で、この絵本を子どもに読み聞かせしているいろいろな世代の読者を登場させ、佐野さんが住んだ土地を訪ねて、佐野さんの含蓄と重みのある言葉を入れながら、ドキュメンタリーに創り上げた映画だった。
 いろいろな〝ねこ〟が登場する。そのねこの鋭い目。流れる音楽もいい。カメラアングルも詩的ですばらしい。
 何となく観客に、生きるということの大切さ、死ぬということの意味、愛や孤独、自分も自然の中の生き物、そんなことを考えさせる映画だ。
 佐野さんが亡くなった後、佐野さんの生まれ故郷の北京にまで行って、佐野さんの原点に迫り、佐野さんが感じた〝乾いた風〟を映像で感じさせるあたりが、僕は力作だと思う。
 今度、大澤君に会ったとき、「いい映画をつくったね。」と、心から言える心境で劇場を後にすることができた。