岡野雄一著『ペコロスの母に会いに行く』を読む

 昨日の夕方、妻から電話があった。
 「町田の本屋に行ったけどないのよ。都心の本屋ならあるだろうと店員が言っているので買ってきてよ。」
 妻が言っているのは、2、3日前のTBSテレビ「みのもんたの朝ズバッ!」で紹介していた岡野雄一著『ペコロスの母に会いに行くという本だ。
 帰宅の前に高田馬場の書店に寄って、店員にたずねたら、首を傾げてパソコンで検索し、別の階に行くことを案内されたくらいだから、まだまだ、そんなに話題の本ではないようだ。
          

 テレビで紹介されていた時は、出勤前のお茶を飲みながら、「認知症の本だってよ。」と妻に言った程度で、何となく見ていたので、紹介内容は覚えていない。
 それで、帰りの電車の中で「この本が紹介された本かぁ〜、どんな内容なのかな?」と思ってページをめくったら、柔らかいタッチの親しみのある絵柄の4コマ風漫画と、エッセイが載っていた。
 著者は長崎在住のフリーライター
 夫を亡くしてから認知症の症状が出て、グループホームに入所している母の様子を、温かく見守りながら、長崎弁の会話を吹き出しに入れて、ユーモアたっぷりに描いている。
 その内容が、笑える話だったり、ちょっと切なくなる話だったり、昭和の家族の風景だったり・・・。
 僕は、その内容に引き込まれて、帰宅しても読み続けて、結局は妻にもう一日渡すのを延ばしてもらって、今日の通勤電車で続きを読んだ。
          
◇もう少し内容を紹介すると、
 認知症が進む母は、今と昔を自由に行き来する意識の中で、亡くなった夫と会話したり、幼くして亡くした妹を背負っていたり、それが、なんとも心を揺さぶる内容なのだ。
 そして、筆者は、酔いつぶれて路地に寝込んだり、酔うと母親にまで暴力を振るう酒癖の悪い父の、その時分の父の心境を、認知症になった母に接しながら理解するし、また、息子の服に継ぎあてしようと、ベットの上で布団の縁を持って、両方の手を、運針のようにしきりに動かす母の姿を見て、「忘れることは、悪いことばかりじゃない。母を見ていて、そう思います。」という心境になる。
 認知症がテーマというと、何となく暗く、周りで介護をするのは大変だと思って、僕は正直、避けたくなる気持ちもあるのだが、このコミックは、それを感じさせずに日々の出来事をユーモアのあるタッチで描き、ある程度の認知症の様子というか「認知症とは、そういうことなのか」と理解できるのもいい。
 なかなか、奥の深いコミックとエッセイだ。
 ちなみに、タイトルの「ペコロス」というのは「小さなタマネギ」という意味らしい。著者のペンネームで「母親ゆずりの小柄な体型で、ツルツル頭だから」と説明されていた。
 また、「映画化決定!」と表紙帯に書かれている。
 自費出版というが、長崎では話題の本なのだ。