北方謙三の文庫『楊令伝・14』を読み終える

 現在、文庫化された北方謙三の『楊令伝』は、毎月発行されていて14巻となっている。
 僕は、この小説をカバンの中に入れておいて、他に読みたいものが出てきたら中断しなから、通勤時間やちょっとした空き時間などに継ぎ接ぎで読んできた。
 その文庫『楊令伝』も、今月中旬に発行される15巻で最後だ。
              

◇僕は5年ほど前、中国オタクの知人に勧められて北方謙三の『水滸伝』15巻を数ヶ月かけて読んだ。
 僕はそれまで、北方謙三という作家はハードボイルド的な作家というイメージだけで、作品をあまり読んだことがなかった。
 ところが読み始めてみると、北方謙三の世界に僕はのめり込んでしまって、結局全15巻を夢中になって読んだ。
 そして、『水滸伝』15巻を読み終わる頃には、続編として単行本『楊令伝』が刊行されていたが、僕は文庫化を待った。
 それは、全15巻となると、文庫本でないと経済的にも痛手だし、読書空間の満員電車の中では文庫本でないと大きさといい、重さといい、都合がわるい。
 『楊令伝』文庫が出たのが昨年の6月だったと思う。それが今月で15巻だ。
        

◇前にも書いたが『水滸伝』は、中国の四大奇書の一つとされる、108人の豪傑たちが世直しのために反乱を起こすという物語の原典を、北方謙三は大胆に解体して、キューバ革命をイメージして、北方流に再構築し、革命の小説として北方版『水滸伝』として書かれたから面白いのである。
 最後は、戦いに敗れ、夢果てたかと思ったが、散り散りになった同志が再び集結して志を果たそうとする、その『水滸伝』続編として書かれたのが『楊令伝』と知り、僕はワクワクしながら読み始めた。

◇『楊令伝』をここまで読んでは、ちょっと戦いに中だるみ的なものは感じたが、結局は革命・反逆の小説『水滸伝』と違って、『楊令伝』は新しい国づくりの小説だった。
 まだ最後の章を残しているので、その最終章でどう展開し、どのような結末になるか楽しみではあるが、帝を据えて国づくりをするのでなく、交易を盛んにして、自由市場を活発にし、経済的基軸国家づくりの物語だった。
 
◇すでに、北方謙三、『楊令伝』続編として、中国史実に英雄として登場する人物をモデルに『岳飛伝』を単行本で出し始めている。
 それにしても、北方謙三のパワーには驚く。
 『水滸伝』『楊令伝』『岳飛伝』合わせて「大水滸伝50巻構想」なのだそうだ。
 いずれ『岳飛伝』も文庫化されるだろう。僕はそれを楽しみに待っていたいと思う。